【親友それはダウト(1)】

第106話

【親友それはダウト(1)】


 僕の友達は絶対に嘘しか言わない。

 猫を見れば象と言い、象を見れば猫という。

 見えないものが見えるといい、聞こえない物が聞こえると言う。

 助けてあげればバカと言われ、ケンカをすれば好きと言われる。

 そんな彼を回りは嘘つきと呼び、見下し、さげすんだ。

 それでも彼は笑顔で嘘をつき続け、僕は彼と友達だった。


 ある時、彼は僕の大切な形見の手鏡を壊した。

 今ならそれがワザとではないと理解できる。

 でもその時の僕は死んだはずの親をまた失ったような、幸せな平穏がまた壊されたような怒りとも解らない暗い感情に包まれていた。


「ざまーみろ」僕を覗き込んで彼は言った。


 彼の言葉はそのまま僕のこの黒く粘ついた感情に食い込んだ。


 彼を睨みつけ、初めて言った。「うそつきの分際で・・・」

 言い放った後思わず僕は彼と目をそらした。

 彼の顔には笑顔はなく、そこには僕が初めてみる悲しげなそして虚ろな瞳があった。

 彼は僕を見据え、「ぼくは嘘つきです」とだけ呟き、その足で村の中心にある27階建ての県営アパートから飛び降りた。

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