【ハナちゃんの絵本:ハナちゃんと雨の日】

第94話

【ハナちゃんの絵本:ハナちゃんと雨の日】


 ハナちゃんの頭にはお花が咲いています。

 小さくて可愛いお花です。

 ハナちゃんはそのお花を大切にしています。

 お花はお母さんの頭の上にも

 お父さんの頭の上にも

 妹のキクハちゃんの頭の上にも

 お友達の頭の上にも咲いています。

 みんなの頭の上に咲いています。

 とても綺麗です。



 ハナちゃんは晴れの日が好きです。それと同じ位に雨の日も好きです。

 雨の日の草木は爽やかに微笑んでいるように、ハナちゃんには見えるからです。


 今日は朝から雨でした。昨日もその前の日も雨でした。

 ハナちゃんはお家でお絵描きやおままごと、忍者ごっこをして遊んでいましたが、今日はお外で遊びたくなりました。ずっとお家の中にいたからです。

 だから今日は、昨日お母さんが買ってきた新しい傘と長靴を履いて、晴れの日にいつも皆で遊んでいる公園へ行きました。


 公園には誰もいませんでした。

 砂場もベンチも滑り台もブランコも、びしょびしょの水びだしです。

 ふと、ハナちゃんの目に鮮やかな紫色のお花が映りました。

 公園の入口には鮮やかに咲いている紫陽花がたくさん笑っていました。全身を揺らして笑っていました。

ハナちゃんはよく目を凝らして顔を近付けます。

 紫陽花さんのお花や葉っぱには、何匹ものカタツムリさんがくっ付いていました。どのカタツムリさんもなんだか、嬉しそうです。そして、ゆっくりゆっくりと紫陽花さんの上を、精一杯に歩き回っています。だから紫陽花さん達は、こちょばゆくなって笑っていたのです。

 見ていたハナちゃんも何だかくすぐったくなって笑ってしまいました。


 それから公園へ入って水溜まりを一つずつ覗き込みました。

 水溜りさんたちはみんな同じように、小さく身体を揺らして踊っています。けれどハナちゃんが近付くと、鏡の様に大人しくなるのです。

 覗き込むと、新しい黄色い傘と、ハナちゃんの可愛いお顔と、ハナちゃんの頭に咲いている小さなお花が順番に仲良く、水溜まりさんに映ります。全部の水溜まりさんに映ります。

 ハナちゃんは自慢の新しい傘とお花を水溜まりさん達に見せてあげたかったのです。

 ところが一つだけ、ハナちゃんが近付いても大人しくならない水溜まりさんがいました。

 ハナちゃんはよく目を凝らして顔を近付けます。

 すると、水溜まりさんの上をアメンボさん達が、スイー、スイーっと滑っていました。どのアメンボさんもなんだか、はつらつとしています。だから水溜まりさんは、こそばゆくなって身体を小さく揺らしながら、笑っていたのです。ハナちゃんも何だかくすぐったくなって笑ってしまいました。


 雨の音が強まってきました。

 雨がハナちゃんの新しい傘に弾かれると、気持ちのいい音が鳴なります。

 雨が水溜りさんに飛び込むと、可愛い音を発します。

 雨が草木にぶつかると、耳障りのいい音を奏でます。


 ハナちゃんがその音たちに耳を澄ましていると、どこからか「クーン、クーン」と弱々しい泣き声が聞こえてきました。

 ハナちゃんも、水溜まりさんも、アメンボさんも、紫陽花さんも、カタツムリさんも、みんな笑っているので、他の誰かです。

 ハナちゃんはよく目を凝らして公園を見渡しました。

 すると、ベンチの下から萎れたお花が覗いていました。

「雨の日のお花さん達はみんな笑顔のはずなのに、何で泣いているのだろう」とハナちゃんは不思議に思います。


 ハナちゃんはベンチに近付いて、下を覗きました。

 そこには小さく身体を揺らして、泣いている子犬がいました。

 けれど身体を揺らしているのは、くすぐったいからでも、踊っているからでもありません。

子犬は凍えていたのです。

 子犬が泣いているのは、笑い泣きでも、嬉し泣きでもありません。

 子犬は悲しんでいたのです。


 考えるよりも先にハナちゃんは、新しい傘をベンチに置くと、子犬を両手で抱き抱え、お家に向かって駆け出しました。

 ハナちゃんの頭のお花にも、子犬の頭のお花にも雨は降り注ぎます。

 お家に着くとハナちゃんは、すぐに子犬をタオルで包んで、暖かいミルクをお母さんに頼んで出してもらいました。

 最初は驚いていたお母さんも今では、ミルクを飲む子犬とタオルで身体を拭くハナちゃんを、笑顔で見つめていました。


 子犬と子犬の頭に咲いているお花は元気になっていました。

「お花も元気になって良かったね、雨を沢山浴びたからだよ」とハナちゃんは子犬に話し掛けました。子犬は嬉しそうに「ワンっ」とお礼を言いました。


 次の日も天気は雨でした。

 子犬はハナちゃんのお家で飼うことになりました。

 名前はツチネです。ハナちゃんが名付けました。

 そのハナちゃんが今日は、風邪を拗らせて寝込んでいます。

 そんなハナちゃんをツチネは心配そうに寄り添い、見守っていました。

 ハナちゃんは「コホン、コホン」と咳をします。「じゅるり、じゅるり」と鼻水をすすります。

 それでもハナちゃんの小さなお花は奇麗に咲いていて、ハナちゃんは満面の笑顔です。

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