【身分差・歳の差・分相応】

第81話

【身分差・歳の差・分相応】


 彼女と一緒に暮らせるのなら俺は、彼女の幸せ以外もうなにもいらない。この先ずっと死ぬときまで一緒に居られるのなら、いやもっと、死んだその先までも共に寄り添い続けることができるのなら、俺はどんなことでも犠牲にしようと思っている。

 彼女も俺と同じ考えだ。

 なのに、周囲の人間はそのことを否定する。

 この世の誰よりも俺たち二人が一番、お互いのことを考えているのに。

 そして、彼女と共に考え抜いて、考え抜いて、突き抜けた結果導き出した選択が、これであるのにも拘らず。まわりの奴らは言うんだ。

「おまえのその身勝手な愛で彼女を幸せにできるとでも思っているのか?」

「その身勝手な愛を注ぐことが彼女の為になると、本気でそう思っているのか?」

 黙って俺は聞いてやる。反論はしない。

 奴らは彼女のことを何も考えてやれていない。少なくとも、俺よりは考えていない。

 だって、信じていないのだ。彼女のことを。

 俺は彼女を信じている。彼女はこの先何が起ころうと、俺と共に生きると決めた。その選択の先にどんなことがあっても決して後悔しないと、そう心に決意したのだ。その決意を、彼女の強さを、俺は信じる。信じ続ける。たとえ、どんなことが起きようと。

 だから俺は黙って、奴らの「心配」を言い訳にしたその浅はかな暴言に、耳を傾けてやる。

 だが、もう、俺は我慢ができない。奴らが言葉を吐くたびに、彼女の心が削られていく。そんな気がする。現に、俺の隣で小さくなって膝の上で両手を強く握っている彼女は、とても辛そうだった。

 なぜ彼女のことをこうも弱い人間のように奴らは話すのか。どうしてこんなにも彼女のことを軟弱に形容するのか。

 彼女は強い。ここにいる誰よりも。俺が出会ってきた誰よりも。彼女は強いんだ。

 俺は、重い口を、開く。

「愛なんてそもそも身勝手です。無償で注ぐものなんですから」抑えたつもりが、案外に大きな声になっていた。だが、もう止まらない、このまま俺は続ける。「その身勝手な無償の愛を、与え続ける覚悟と、受け取り続ける覚悟を、俺たちは互いに持ち得たんです。あんたらの中でそこまでの覚悟を持って伴侶と共に歩んで来た者はいますか? 誓いあった、なんてそんな陳腐な言い訳はしないで頂きたい。誓いなんて、その場限りの約束ですから。神に誓ったなんてのは話にもなりません、言語道断です。二人の問題に、第三者が入り込むこと自体がナンセンスなんです。たとえそれが神であってもです。そして、互いに誓いあったのなら、自分にも誓わなくてはいけないんですよ?」解っているのかお前たちは?  と俺は奴らを見渡す。

 今度は奴らが黙っている。表情は皆一様に呆気にとられていた。俺は視線を横の彼女へ向ける。俯いていた彼女は俺の視線に気が付いたのか、顔を上げ、見上げるように微笑んだ。俺も微笑み返してからまた奴らへ視線を戻し、さらに続ける。

「その誓いを日々持ち続ける意思、それが覚悟なんです。たとえ裏切られたとしても、それでも相手の幸せを想い続ける意思、それがあなたたちにあるのですか? あるのなら、今がその意思を彼女に向ける時です。彼女はまさに今、あなたたちの家柄や家庭の事情などの一切を放棄してまで、俺と共に人生を歩むと決めたんですから。お父様方からすればそれは裏切りのように映るかもしれません、けど、だからこそ、彼女の笑顔を奪いたくないのなら、まずは彼女を信じてあげてください」

 重かったはずの口が嘘のように俺は言いきった。部屋は静まり返った。

 遠くで山鳩が鳴いている。庭の竹林が風に靡かれて、涼しげな音を奏でていた。障子越しに、穏やかな日差しが、いつの間にか足もとまで伸びていたことを、今になって俺は気が付いた。世界が広がった気がした。

 彼女のお父様が、眉を寄せて俺の名前を口にする。名字に「君」付けで、呼ばれた。今までにない位の親しみの籠った口調か、もしくは、呆れたよ、君には参った、とでも言いたげな口調だった。それから、あのね、とお父様は申し訳なさそうに続けた。

「あのね、うちの娘……まだ五才なんだよ」

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