【語り手は吉野くんver.帰り道】

第74話

【語り手は吉野くんver.帰り道】


 放課後、小学校の校庭でサッカーをした帰り道。まだまだ遊び足りなさそうな多賀くんが、「狼って馬鹿だよなー」といつものように一切の脈略の無い独白を口にした。

 何を言い出すかと思えば今日は狼への揶揄だった。これまたいつものように僕は呆れつつ相槌も打たずに彼の話の続きを黙って待つ。

「ほら、赤ずきんちゃんの狼ってさ、どうしておばあさんの家に先回りなんかしたんだろうな?」多賀くんは網で吊るしたサッカーボールを蹴りながら、飄々と言った。

「おばあさんを食べた後に、おばあさんになり済まして赤ずきんちゃんも食べようとしたからだろ」僕はさも当たり前のように言う。いや実際、わざわざ口に出して言うまでもなく当たり前の話なのだけれど、やはり多賀くん、僕の意に反して、だったらさ、と更なる疑問を展開した。「だったらさ、先回りなんかしないで、その場で赤ずきんを食べちゃえばよかったじゃん。どうせ二人共とも食べるんだったらさ」

 ほぉ。言い得て妙だ。僕は、この近年稀に見る多賀くんの正論に思わず口籠る。なかなか鋭い考察だった。多賀くんのくせして。いやこの場合、多賀くんの割に、か。って今の僕、すっごくいやな奴みたい。違うんですよ皆さん、多賀くんと一日の行動を共にすれば、僕のこの気持ちを解ってもらえると思うのです、ってだから僕は誰に弁解しているのだ?

「うんとさ、きっと近くに猟師さんか誰かがいたんじゃないのかな?」僕は思い付いたことを適当に言う。「悲鳴を出されたら厄介だったから、とかさ」

「おーなるほど!」と多賀くんは両手を猟銃の形に構えて、「ばん、ばん」と相槌を撃った。いや、打った。

「急にどうして?」どうせ意味もなく急に湧きだった疑問だったのだろうから、訊くだけ無駄なのだろうけれど僕は「なんでこの話を?」と多賀くんに訊ねてみた。

 うん、と多賀くん。「例えばさ、今ここで可愛い少女が目の前に現れたとしよう。俺はその少女と今から一緒に遊びたい。けれどその少女はすぐに家へ帰らなくてはならない、門限だからね。でも俺はどうしてもその少女と遊びたい。そこで俺は考えた、その少女の家へ先回りして、門限を定めている少女の親を殺してしまえば、門限を気にせずに、少女と一緒に遊ぶことができるのではないか、と」

「な、何を言い出すんだよ多賀くん!」僕は声を荒げ、憤りを露わにする。

「でさ、俺は吉野に訊くけどよ、お前、門限ってあるの?」


 僕は咄嗟に辺りを見渡した。

 もちろん、猟師さんはどこにもいなかった。

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