【ミミズは乾涸びて】

第66話

【ミミズは乾涸びて】


「でもまだ無駄なことだとは思っていないだろ?」僕は咄嗟に口にした。必死な僕を冷静な僕が首を傾げ見つめていた。

「そうだな…ただ、なぜあんなにもひた向きに悲しめたのか、その理由を探すくらいには年をとったよ」僕の背中にタカルの声がぶつかる。

「確かに…悲しかったとか弔いの意味よりも、そう感じていたあの頃の私達を忘れない為の儀式、そんな意味合いが強いかもしれないわね」サクマはまだ屈みながら手を合わせていた。

「それに…実は夢だったんじゃないかとも最近考えるんだ」

「そうね。確かにあの頃の私達、毎日楽しい夢の中だったもの。ヒロキなんかカラスが魔王の手下だなんて本気で言ってて。どうしてかしら?何があんなに楽しかったのかしらね」

 淡々と口にしたタカル達を横目にして、本当にあの子達が僕らなのだろうか、と僕は思わずにはいられなかった。

 僕は頭の中で映像化された記憶をスキップさせる。

 ありもしない宝物を掘りに山へ通った日々。

 宝物を探すようにイナゴやダンゴ虫、干涸びたミミズを集めていた日々。

 雨蛙は秘宝だったし、ヘビを捕まえた日には一日中お祭騒ぎだった。

 そんな無邪気な子どもだったのに。

 あの時、僕達は一緒に何かを埋めて来てしまったのだろうか。

 大人達に内緒で育てていたあのミチルの亡骸と共に。

 それはとても奇麗で触れたら壊れそうなくらい繊細なものだった気がする。

 それを僕達は毎年掘り返しに来ていただけなのだろうか。

「来年もまた来よう」この言葉を僕は飲み込んだ。大人になる為の薬なのだと自身に言い聞かせて。とても苦くて吐き出してしまいたかった。


 風に振り回されているススキ達がざわざわと音を立てながら身体を揺らしている。

 僕らが遥か彼方に見上げていた柿の木も今では小ぢんまりと佇んでいる。

 ここは変らない、大きさ以外は。あるいは変化し続ける微細で壮大な自然の循環に気がつけなくなったのかもしれない。それとも変わってしまったことを認めたくないだけなのかもしれない。

 足元には汚い針金のようなミミズの死体。

 気持ち悪いほどに無数の蟻がそれに群がっていた。

 誰に頼まれたのでもなく。

 ただ悪戯に。

 純粋に。

 現実的な温度を保ったまま。

 乾いた空気に覆われて。

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