【交際ゴーサイン】

第52話

【交際ゴーサイン】


「ねぇねぇ、付き合うって何だと思う?」

「それは、男女の仲、という意味ですか?」

「もちろん」

「何がもちろんなのかは理解しかねますが、ええそうですね、僕の考えでよろしければ、『付き合う』の定義をお話しましょう。ですがその前に、あなたの考えを僕に聞かせてくれませんか?」


「まぁ、いいけど。私にとって、付き合うってのはね、大好きになれそうな人と、ある程度の親密な関係を築く『努力』をするってことだと思うの。相手に自分を知ってもらって、自分も相手のことをもっと知ろうとする努力。そういう契約を結ぶってことがつまり、付き合うってことなのよ。えっとね、要するに、相手を好きになれるかどうかの、お試し期間。そういうことだと思うな」

「なるほど。解りました」

「で、君はどう思うの?」


「付き合う、というのはそういった現実的なことを抜きにして、互いが互いを必要だと思うことなのだと思います」

「ふうん。随分と観念的ね。なら必要だと思わなくなったらお終いなの?」

「でしょうね」

「なんだか……そう、寂しい関係だね」

「はい。人とは寂しいものですから」


「そうだ、なら、愛と恋の違いはなんだと思う?」

「さっき僕が言ったことを前提に考えてみれば、【恋は相手を信じること】で【愛は自分を信じること】ですね」

「どういうこと? なんだか逆に思えるけれど」


「恋は、さっき僕がお話しました『付き合う』でいうところの、互いに相手を必要だと感じることなんですが、相手が本当に自分を必要と感じているかどうかは確認できないんです。心は見えませんからね。だから最後は相手が自分を必要としている、と思い込むしかないんです。でも一般的にはそれを信じると形容するみたいですけれど。だから、恋は、相手を信じることなのです」

「へぇ。なら愛は?」

「はい。一方、愛の場合ですが、愛は、どんなことがあっても相手を想い続ける覚悟が自分にはあるのだと、自分を信じることなんです。たとえ、相手に必要とされなくなっても、相手から裏切られたとしても、この先一生相手を思い続ける覚悟。それが愛です。ですから、愛は自分を信じることなのです。」


「なんだか怖くない、それ? 愛って、恐いんだね」

「ええ、恐いですよ。恐くて、怖いです。憎しみと愛はほぼ同義なのですからね。憎しみは恐いものです。ですから、愛だって恐いのです」

「なら逆に、憎しみは温かかったりするんだ? 愛と憎しみが同じなんだからさ」

「ええ。そういうことになりますね。きっと憎しみは、恐くって、温かいんです。愛と同じように」

「でも、愛の反対は憎しみよね?」

「いいえ、愛の反対は無関心ですよ」

「無関心……なるほどねぇ」

「ええ。愛の反対は、無関心です。けれど、愛の裏は、憎しみです。愛と憎しみは表裏一体、一心同体なのですよ」


「ふうん。――ねぇ、思ったことを言ってもいいかな?」

「はい、どうぞ」

「君の話って、屁理屈だよね」

「嫌ですか?」

「ううん。嫌じゃない」

「退屈ですか?」

「ううん。楽しいよ」

「嬉しいです。そう言ってくれるから僕は、あなたのことが好きなんです」

「私は君が好きではないけどね」


「努力をしても、ですか?」

「さぁ、それは分からないけれど、でも、君とは契約を結びたくないよね。今はまだ」

「……残念です」

「君のそういう正直なところ、わりかし好きよ」

「そうですか。少し、気分が晴れました」

「そ、ならよかった」

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