【ヘッドのベッドのシンフォニー】

第49話

【ヘッドのベッドのシンフォニー】


「やめて、やめて、やめて」

「何を?」僕は彼女に優しく聞く。

「やめて、やめてやめて、やめて」彼女は両手で耳を塞ぎ、叫ぶばかりだ。

「手を離して、僕の声をちゃんと聞いて」僕は彼女の両手首を掴んで、言った。なるべくやさしく聞こえるように。

「やめてやめてやめて」彼女は膝に顔を埋めて固く丸まった。

「だから、何をだい?」僕は彼女を揺さぶる。強く、熱く、力一杯に。

 静かだった。

 しばらく、きーん、と空気の擦れる音しか聞こえなくなった。

「何をしたの?」

 不意に僕の後ろから声がした。

 鼓動が高鳴った。

「聞かないで」振り向かずに僕は答える。

「何を?」

「聞かないで、聞かないで、聞かないで」僕は両手で頭を抱えた。身体一杯で抱えた。

「頭を上げて、私をきちんと見てごらん」

「聞かないで聞かないで聞かないで」僕は精一杯に頭を振った。僕の頭は急に止まった。強い力で押さえ付けられて。

「だから、何をだい?」

 最後に聞こえたその声は、焼けた鉄のように冷たかった。

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