【夢中】

第47話

【夢中】


 僕は自由だ。

 空を飛び、時間を止め、ビルを持ち上げ、理想の相手と好きな時好きなシチュエーションで恋をする。必要なら人も殺した。重力にも法律にも時間にも他人にも何にも束縛されない。

 もちろんそれは僕のいる世界が夢であり、夢の中だと僕が理解していなくてはならないのだが。

 ここまで夢を制御するのには正直苦労した。時間にすれば二十年。

 つまり僕が幼稚園の頃に夢を夢だと自覚してから今に至るまでの月日をかけたわけ。

 最初は恐い夢から強制的に目覚めるだけで一杯一杯だった。

 だが今ではどうだ。夢の世界の悪人は僕に恐れ平伏し、僕を一目見れば無条件に降伏する。逆に健全な市民は誰もが僕を崇め僕に憧れた。

 正に僕はヒーローだ。

 ある日いつものように僕は高層マンションに乗り込み無抵抗の悪人をやっつけ少女を助けた。しかし少女は余程恐ろしい目に合わされたのか、僕に礼すら言わずただただ震えているばかり。

 僕は少女を喜ばそうと言う。「今日は君が彼女だ。光栄だろ?」

 少女は叫ぶ。

「いや、やめて……近寄らないで!!」

 僕は思った。こんなものは要らないな。すると少女は動かなくなった。


 僕はまた飛び立つ。

 悪人をやっつけ弱き者を助ける為。

 部屋の窓を割ってベランダから。

 空を飛ぶ間、僕は考える。

 次こそ完全な自由になれる

 完全な自由に。

 僕は……。

 ヒーロー。


 目前に――地面が迫っていた。

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