【代替可能な】

第46話

【代替可能な】


 私は今年四歳になる息子と昆虫採集へ行きカブトムシをとった。息子は初めてのカブトムシにはしゃいでいた。

「パパ、これうごいてる! うごいてるー!」息子は怖々と指でカブトムシの角を摘まみ、持ち上げて私へと見せてくれる。

「そうだね。生きているからだね。パパたちと同じように、生きているからだね」

「いきてるー! パパこれ、いきてるー!」

 帰りの車内の中でも虫籠から取り出して、覚えたばかりの言葉を息子は叫ぶ。嬉しそうに、それこそ、無邪気に。


 それから毎日息子は、カブトムシを観察したり、籠から取り出し闘わせたりしていた。きちんと餌もやりカブトムシの世話をこなしている。今では彼らに対する畏怖も皆無のようで、腕に登らせて「ヨシツネ、イタいよー」と笑いながら、小さき力持ちの命を感じているようだった。

 ヨシツネとはカブトムシの名前で、息子は全てのカブトムシたちを見分け、名付けているようなのだがしかし、私にはすべて同じ個体に見える。じっと観察をしているからこそ身についた洞察なのだろう。

 こんな些細な息子の成長を見ることが、私の一番の楽しみでもある。だからこそ、忙しい仕事にも何とか持ち堪えることができるというものだ。


 夏も終わり、カブトムシは示し合わせたかのように死んでいった。

 私が仕事から家へ戻ると、息子がカブトムシの亡骸を前に座っていた。

「どうした?」私は息子に訊く。

「うごかなくなっちゃったの……。でんち……きれたの?」悲しそうに息子は呟いた。

 息子が命の尊さを学ぶのに好い機会だと思い、私は息子を抱き締めて頭を撫でた後、息子と事切れたカブトムシたちをその場へ残し、黙って立ち去った。書斎に入った私は不謹慎ながらもやはり、息子の成長が嬉しかった。


 吐く息が白くなり始めた頃。

 妻が旅行へ出かけているので私が息子の子守をしていたのだが、不運にもこの日、私は倒れた。日頃からの仕事で身体に無理がたかったのか、鼓動が大きく高鳴り、途端に胸が苦しくなってとても立ってはいられなくなったのだ。必死に起き上がろうとするのだが一向に身体が言うことを聞かない。声すら出ない。呼吸が困難なのだ。

 すると息子が私の異変に気付き、心配そうに駆け寄って来た。もがく私の身体を必死に揺さぶる息子は、泣きじゃくっていた。

 息子は思い立ったように私から離れ、台所へ行き、何かを持って戻ってくると、涙を流した笑顔で言った。

「パパまってて、いまいれかえるから」

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