【夜空に輝くあの真ん丸い星にはウサギが住むと言う】

第40話

【夜空に輝くあの真ん丸い星にはウサギが住むと言う】


 誰もいない夜を散歩した。星空の奇麗な、そんな夜を。僕たちは二人で、歩んでいた。

「ねぇねぇ、一番輝いている星が一等星なんでしょ?」彼女が夜空から視線を外して訊いてきた。

「そうだよ。実際に放っている光量とは関係なく、ここから見上げて一番輝いて見える恒星が、一等星さ」

「だったらさ、一番の一等星ってアレじゃないの?」彼女は星空に浮かぶ大きくて真ん丸い星を指差す。「一番大きいし、一番輝いていて、きれいだし」

「それ、本気で言ってるの?」僕は苦笑する。

「うん、本気だけど……何がそんなにおかしいの?」人が真面目に考えているのにさ、と彼女は拗ねた口調で言う。

「ごめんごめん。う~んとさ、もう一度説明するけれど――一番輝いて見える『恒星』が一等星なんだよね」

「えっとぉ……だから、つまり?」彼女は小首を傾げる。

「うん、だからさ、あの星は自分で輝いていないだろ? 太陽という恒星に照らされているだけなんだから」

「あ、そっか! だよねぇ、もし太陽みたいに燃えてたら、あそこに住むウサギさんたちが丸焼けになっちゃうもんね。よく考えれば分かることだったよ、あたしってほら、おちゃめだからさ」許してちょ、と彼女は無意味に跳ねた。ウサギの真似でもしているのだろうか。

 と言うか、「それは流石にボケだろ?」僕はまたしても苦笑する。

「ん? なにが? え、もしかして太陽って燃えてないの?」彼女は大真面目に口にした。

「すっげーよお前」僕は噴き出しながら彼女のその幼さに感心する。或いはただの世間知らずとも言えるのだけれど、それでも彼女はウサギの話を未だに信じているような女の子なので、僕にとってはそれだけで最有力絶滅危惧種指定の稀有で貴重な存在なのだ。それはもっと簡素に言い換えれば、とてつもなく大切な存在だ、ということ。決して口に出して表すことのできないほどに清廉で純粋な、彼女への想い。

 僕は彼女の頭を撫でて、懐に抱き寄せる。

「や、やめてよぉ、恥ずかしいってば」と暴れる彼女の頬っぺたを今度は両手でむぎゅ、と団子のように摘まんで僕は悪戯に微笑む。

「ふぁふぇふぇほー」と抵抗する彼女は、本当に愛おしい。

 壊してしまいたいくらいに。

 僕だけの永遠にしてしまいたいほどに。


 そうだ、と僕は思い立つ。

「なぁ、行ってみないか? 僕たち二人だけで」

「どこへ?」

「あそこだよ」僕は腕を掲げ、指差す。「あの、青と緑と白の奇麗な、美しい星にさ」

 僕とキミの二人だけで。

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