【少女の我がまま、在るがまま】

第30話

【少女の我がまま、在るがまま】


 都会から離れた、田舎町。

 星の奇麗な夜。

 一人の少女が、町を訪れた。

 体躯は幼く、保護者がいないことだけでも不自然であるのだが、なんと彼女は森の中から現れたのだった。

 近くで花火をしていた高校生たちは、不思議に思いながらも、心配になり声をかける。

 「道に迷ったのか? 家はどこだ?」

 少女は沈黙したままで、応答する代わりに、青年の胸をその小さな腕で突いた。

 瞬間。

 青年の背から、少女の手が生えた。

 否、生えたのではない。突き抜けたのだ。

 突きぬけたその幼い手には、握られた心臓。

 青年は、絶命していた。

 最初の犠牲者が出たと同時に、悲鳴が上がる。

 殺戮の始まりを、町中へ報せるかのように。


 「何の罪もない我々が――なぜ、殺されなくてはならない。なぜ君は……こんな酷いことを、惨いことをするんだ」追い詰められた男は戦々恐々としながら叫んだ。

 なぜこんな理不尽なことをするのだ、と。

 なぜ平気でいられるのか、と。

 少女は小さく噴き出して、答える。「なぜこんな酷いことをするんだ、ですって? あなた、随分と面白いことを言うのですね。そんなこと、言うまでもありませんわ」わからないかしら、と少女は首を可愛らしく傾げて、逆に男へ投げ掛ける。

 男はしばらく黙考するが、思考は混乱を極めているが故に、もはや質疑に応答できる状態ではなかった。

 少女は仕方なさそうに口にする。「一方的な惨殺がね――とっても楽しいのよ」これ以上ないというほどにね、と少女は破顔する。それから男の顔を覗きこむようにしゃがんで、「それにしてもほんと、あなた達人間って笑ってしまうほどに愚鈍だわ。もっと思いを巡らせてみなさいよ。いいかしら? あなたさっき、自分たちには罪がないって言いましたけれど、罪ってなに? もし、私に罪があるというのなら、あなた達にだって罪はありますよ。正し、それはきっとあなた達にとっては罪ではないのでしょうけれど。逆にね、あなた達に罪がないというのなら、私にだって、何の罪もないわ。楽しいことをして、一体何の罪になるというの? あなた達人間にとって損害になるか有益になるか、その程度の違いじゃなくって? なぜ私がそんな矮小な世界の価値観で自分の欲動を抑えなきゃならないのかしら、甚だ疑問だわ。そうね、例えばの話ですけれど、『罪があろうと無かろうと、命を奪ってはいけない』というのならまだ理解の余地がありますが、罪があれば殺して良くって、なければ殺してはいけないなんて、そんな誰かにとって都合のいいだけの詭弁がまかり通っているのなら、それこそ私の殺戮が肯定されていることになると思わなくって? ああ、駄目よ、これじゃ駄目だわ。何だか私、とっても不愉快になってきました。ああ駄目ね、やっぱりあなた、楽しくないわ」

 言って少女は男の頭蓋を捻り潰すと、残りの隠れている住民を、悠々自適に探し回った。

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