【二者択一のカラー】

第26話

【二者択一のカラー】


「どっちのコード切ればいいの! 時間ないよお姉ちゃん!」カイの悲痛な叫びが携帯電話越しに聞こえてくる。

 私は更に五島を蹴り飛ばし、「どっちだ、早く言え!」と言い迫る。彼の手足の腱を私は既にナイフで切断しているので、五島は身動きが取れない。しかし五島は、沈黙という抵抗を私たちに対して行使していた。

 残り三分。私は五島から、最後のシステム解除指定コードの色を聞き出さなくてはならなかった。大切な弟を、カイを救う為に。


 *

「その赤いレンジとって」私はカイに頼む。

「どれ?」カイは申し訳なさそうに言った。

「ごめん、えっと右から二番目の奴」

「はい」

「ありがとう」

 アトラクションに異常があるという通報を受けて私は、若干七歳でありながら技術者として十分通用する弟のカイと共に、ここエバーランドを訪れていた。

 だがそれは急に起きた。

 パーク内での爆発音。

 地響き。振動。

 爆風。粉塵。

 客たちは混乱を極めていた。

 何が起こった?

 この疑問はけれどすぐに解決した。

 カイが連れ去られたことで。

 父のかつての仲間であり父を殺した五島に、カイが連れ去られたことで。

 物理サイバーテロリストのオーソリティ――五島。

 カイはこのテーマパークの中枢である制御室に、時限次元システムごと閉じ込められていた。父の命を奪ったあの忌まわしき時限次元システムと共に。

 そしてここは機械に囲まれたテーマパーク。予想される被害の規模は、あの時を優に超えるだろう。

 死闘の末私は、何とか五島を拘束し、奴から奪った設計図を基に時限次元システム停止に努めた。それを解除するには分解しかない。私は携帯電話でカイに解除の指示を伝えていた。

 しかし最後のコード二本。どちらを切断すればいいのか、それが皆目判らなかった。

 *


「どっちのコードだ、言え! 赤か茶か!」私は五島の胸倉を掴む。

「キスしてくれたら教えてやるよ」五島は卑屈に笑みを浮かべている。

「ざけてんじゃねーぞ!」

「僕は本気さ。あとは君次第だ」

 私は壁を思いっきり殴りつけた。

 カイの笑顔が瞼に浮かぶ。

 私は決意の唾液を呑み込んだ。「嘘だったら全身の皮を剥ぎ取るぞ」

「僕はいつだって剥けている」五島は下品に唇を尖らせる。

 まったくもって反吐が出る。だが私は五島に顔を近づけ、頬を引き攣らせながらも唇を重ねた。やばい、本気で吐きそうだ。

「茶色だ」五島は言った。

「カイ、茶色のコードを切れ!」

「お姉ちゃん、切ったよ!」カイの嬉しそうな声が届く。

 途端。

 五島が腹を抱えて笑いだす。

「何が可笑しい!」私は奴を蹴り飛ばす。

「同時だよ。赤と茶を同時に切らなきゃシステムは止まらない」

 愕然とした。

 絶望の足音が聞こえる。

 カイの笑顔が瞼に浮かんだ。涙が滲む。

 けれど「あ、お姉ちゃん」と場違いなカイの歓声が携帯から響いた。「止まったよ!」

「馬鹿な!?」五島の間抜けた声も響く。

 あ、と私は思い出す。

 弟が色弱だったことを。カイには赤と茶が同じ色に見えていた。

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