【始末請負屋さん】

第20話

【始末請負屋さん】


「人間は平等か? いや平等なのは死だけだ。だがその死ですら、死に至る過程は酷く不平等だ。理不尽ですらある。夢見る様に息を引き取る者もいれば、手足引き千切れ、悶え苦しみながら死んでいく者もいる。或いは飢餓の果てに飢え死にする者がいる一方で、肥えた身体による疾患で死んでいく者もいる。理不尽だとは思わないか?」追い詰められた彼女は勝手に話し出した。

「思わねーよ」俺は彼女へナイフの刃先を向けたまま答える。

「そうか。まぁいい、思考だけは自由だ。それだけは唯一の自由だ。まぁ、やはりこれも平等では無いがな。私はね、平等な死を更に平等にする為に世界中の人間へ、全く同一の死に方を与えたかったんだ。それこそ真に平等な世界を築く為にね。果たしてこれは悪だろうか? 理不尽な社会を、世界を、人類という種を、真の意味で平等に帰すことが、一体どれほど高尚で廉潔な行為か、君には解るだろ?」君は私とよく似ている、と目の前のこの女は付け加えた。

 一緒にすんな、と俺は唾を吐く。「全くわかんねーよ、バーカ。トチ狂うにも限度があんぜ、おねぇさんよ」

「ふふ、まぁいい。虚勢を張るのも自由だ。だがな、これだけは覚えておきたまえ少年。いずれ君が死ぬ時、その瞬間にも世界は変わらず変遷し続け、淀んだ笑い声で満ちている。君の死を憐れみはすれど、自身のことのように痛み得る者は無い。君の死を認識してなお、自分は死なないのではないか、と不肖な幻想を夢見続ける誰もが。滑稽を通り越して幻滅しはしないか?」この世界にね、と彼女は目を細める。

「しねーよ。端からこの世界に希望なんて卑猥なもん抱いちゃいねーんだよ、俺様はよ。夢見る乙女決め込んでんのはてめぇの方だっつーの」俺はナイフを握り直す。

「君は一体幾つの死を間近に見てきた? 一体幾つの死を他者へ与えてきた? 生きていた者がただの肉片と化すその瞬間を目の当たりにし続けて、君は一体何を抱いた? 最後にそれを私に教えてくれないか」

「あのなー、そもそもお前らみんな勘違いしすぎなんだっつーの。死ぬだぁ? 幻想と言うのならそれこそ幻想だっつーの。俺たちは生きてすらいない、生きている、と思い込んでいるだけだ。この状態も心臓止まった状態も、何も変わりゃしねーんだよ。風が止まろうが嵐で吹き荒れようが、そこにあるのはただの空気だろ? そのことと同じだよ。ここにあるのは、ただの物質の循環だ。命? 人格? 死? 笑わせんな、テメェという器が壊れようと継続されようと、世界の物質は何一つ減りゃーしねーんだよ」

「くっく。やはりお前は私に似ているな」

「鏡見てから言えってーの」言って彼女の頭蓋にナイフを突き刺した。

 彼女の循環は停止して、世界の循環へと引継がれる。

「どうだい、死んだ気分は。案外呆気ないもんだろ?」彼女の顔に唾を吐く。「死が幻想なわけねーじゃん。だったら俺は何なんだっつーの」詰まった鼻で俺は笑った。

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