【こうりいずむ】

第15話

【こうりいずむ】


 男は子どもの頃、備え付けメディア端末の前から動かないような暗い生活を送っていた。今では他人の家の暗い部屋で、動かない等身大の銅像を前に一日を過ごしている。それでも最近は週に一回、ある初老の男を訪ね、会話をするために部屋から出るのである。

 その初老の男の部屋で、今日はいつにも増して議論が熱くなっていた。

「……才能を潰すなと言うがもし人殺しの才能がある子がいたら、貴方はその子の才能も認めるというのか?」

「才能があるだけじゃ認められはしないのです。私が言っているのは人の為に立つ、という現象があって初めて才能があると認められる才能のことですよ」

「つまり、誰にとっての才能か?と言えば、皆にとって。というわけか?」

「そうです」

「だが殺人が悪か善かは置いといて、殺人が人の為に立つ可能性も現実には充分すぎるほどある」

「しかしそこから得られる利益は失われたものの上に作られ、しかも極限られた小規模なものですよね?」

「なら貴方は多勢の幸せの為には少数の犠牲は止むを得ないと考えるのか?」

「平和が秩序によって、もたらされている以上、秩序を守るにはそうせざるを得ないでしょう」

「それはつまり、貴方も殺人を許容したと同じ事だぞ」

「なるほど。そうかもしれません」

「だろ?ほら見ろ」

「はい。死刑なんてその典型ですから」

「……話をはぐらかすな」

「はぐらかせてはいません。それに才能の話から脱線させたのはそちらが先ですよ」

「それは……」

「何について何を目的に議論をしているのかを忘れないでお話されることをお勧めしますよ」

「そうだったな、前にも言われたっけ……すまない」

「いえいえ。それよりも来週はおじさんの執行の日です。最後の食事のメニューでも一緒に考えませんか?」

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