【マインドコントロール】

第11話

【マインドコントロール】


「おい、あんた」私は振り返り、後ろを歩いていた若者へ声をかける。「止めた方がいい。君はナイフだが、私にはこれがある」

 上着の上から拳銃のシルエットだけを見せつける。「余りに割が合わないんじゃないか?」

 唖然と困惑をない交ぜにした表情をそのままに、若者は踵を返して逃走した。

 私は口元を吊るす。

 懸命な判断だ。


 私の家へ拳銃が届くさらに一週間前。つまり二週間前へと話は戻る。

 職場から家へ帰ると、リビングの机の上に、小包が乗っていた。今朝家を出る時にはなかった。怪訝に思いながらも私はそれを開けてみた。

 中には、万華鏡の様な、銀色の筒が紙切れと一緒に入っていた。

『これは未来が見える筒です。一時間後の未来を、一回だけ見ることができます』

 紙切れにはそう書かれていた。

「下らない」私は一蹴して、破り捨てた。

 破り捨ててはみたものの、覗くべき代物がそこにある以上、覗いてみたくなるのが人間だ。

 私はそれを覗いてみた。

 すると、私が猫をあしらって顔を引っ掻かれる、という映像が見えた。背景は真っ黒だ。私と猫だけがじゃれ合っている。けれど私は満身創痍の様相だ。

 紙切れに描かれていた言葉が嫌でも思い起こされる。

 ――一時間後の未来が見える。

 そして実際私は、どこからともなく部屋へ紛れこんだ猫によって、腕を引っ掻かれた。そうならないようにと、外へは出なかったというのに……。

 次の週。同じくして知らぬ間に小包が、机の上に置かれていた。

 中には、金色の筒と紙切れ、そして拳銃が入っていた。

 紙切れには前回と同じような台詞が並んでいた。

 前回と違ったことは、『見える未来が一週間後』で『回数が二回』ということだった。それから付け足したように『これはサービスです』と拳銃についての取り扱い説明書が載っていた。

 拳銃のことは置いとくとして、私はさっそく筒を覗いた。

 筒の中の私は、強盗に襲われ、ナイフで刺されて血塗れになっていた。

 ホラーだった。

 私は恐怖した。

 それが一週間後に起こる未来だとしたら、私は自身の身を守らねばならない。

 私は拳銃を手に取った。

 それから一週間後、そこには強盗を見事に追い払った私がいた。

 私は思った。

 ――これは本物だ。

 拳銃のことではない、筒のことだ。

 残り一回、未来を覗くことができる。

 私は悩んだ末、結局すぐに覗くことにした。これが私へ届いたということは、きっと私には避けなくてはならない未来があるのだ、そう思ったからだ。

 しかし、筒の中に映し出された人物は私ではなく、大統領が多くの者を欺き、嘲り、殺戮する姿だった。

 独裁政治の未来だった。

 奇遇にも今日、大統領パレードが、私の住むアパートの前を通る。

 私は拳銃をかたく握りしめる。


 ***

「なぁ、本当にあんなので、暗殺者に仕上がるのか?」

「ああ。強盗だって信じ込んだくらいだ。それに、仕掛けた八六人の内、一人ぐらいは正義感に煽られて実行へ移すだろうさ」

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