【ムーンライト】

第7話

【ムーンライト】


 地面を踏み固めながら、母親は言う。

「本当はね、皆生まれながらに孤独なのよ」

「でもずっと孤りじゃ寂しいよね」息子は母の横顔をちらりと見て、そしてまた星を数え出す。「だからぼくたちはその事を忘れて繋がり合おうとするのかなぁ」

「そうね。自分の人生を他の誰かに見てもらいたいと望んでいるから、見てもらう事で自分の存在が確固たるものになると信じているからね」

「お母さんも信じてる?」

「ええ。信じているわ」

「でもそれって自分を見失ってしまう事にはならない?」

「それでは駄目かしら」

「う~ん……ダメだよぉ」

「なら訊きますよ、自分ってなに?」

「えっと」息子は精一杯考える、星を数えながら。「――自分は自分かなぁ。そうそう、ぼくがぼくであることだよ。それ以外に意味はないよ」

「ならあなたがあなたの心のままに生きようと、周りに認められるように自分を着飾って生きようと、あなたはあなたよね?」

「でもそれじゃ本当のぼくを誰も見てはくれないよ……。だってぼくって心の中では酷いことを考えたりしているんだよ? お母さんにも言えないようなこと」

「誰だってそうなのよ。私だって、お母さんだってあなたに言えないようなことはあるもの」

「そうなの?」

「そうよ」

「でもそれっていけないことじゃないよね」

「ええ。恥ずかしいから言えないこともあるわ。大切だから言えないこともあるわ」

「誰かに認めて欲しい、自分を見てほしいと願うなら、ぼくはそれを閉じ込めながら生きるしかないの?」

「それが嫌だと思うなら孤独に生きればいいわ」母の声は海のように穏やかだ。

「ぼくが孤独に生きてもお母さんはいいの?」

「ええ。あなたが私の、可愛い可愛い坊やであることに、変わりはないのですから」

「うん――でも、やっぱりぼくは、ぼくの心を閉じ込めたり偽ったりはしたくないな」

「自分の心を抑圧したくないのね?」

「うん。でもそれって孤独になること?」

「さあ、どうかしら? やってみたらいいわ」

「わかった。そうしてみるよ、ぼく」

 息子は銀河系の星を数え終えたあと、立ち上がって母親を見遣る。

「どうしたの? 泣いてるの?」

「ええ、嬉し泣きよ――あなたがこんなにも立派になったんですもの」

「そうかなぁ。うん、それじゃあ、そろそろぼく行くね」彼は立ち上がり歩き出す。

「ええ、行ってらっしゃい」彼女は手を振り子のように軽く振る。

 息子は歩き出してすぐ振り返り、母に訊いた。

「そういえばぼくは、誰かを見てあげているのかな?」

「ええ、きっと夜にはみんなを見つめていますよ」母はにっこり微笑みながら言った。

 嬉し泣きの滴が頬に、悲愴な海を創っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます