【星の種】

第3話

【星の種】


「それ、なんの種なの?」リクは訝った。彼が見詰める先、そこには膝を畳んで地面に穴を掘るカナがの姿がある。

 カナは妹で、まだ四歳の危なっかしい年頃だ。先ほど目を離した隙にいなくなってしまい、リクが探し回った所、公園で一人遊んでいた。家に連れ帰ったのも束の間、カナは庭に出ていき、穴を掘り始めた。どこで手に入れたのか、小さな手には「種」が握られている。

 カナはその幼い顔にへへ、と笑窪を空けた。「ほしなの。リクにぃ、これは『星の種』なの」

「ほしぃ?」

「そう、お星さまのほし!」

「へーそいつぁ凄いなぁ」

 リクは眉を顰めながら口元を吊るし、

「で、誰にもらったの?」

 一番知りたかったことを問う。

「えっとねぇ、流れぼち」カナは陽気に言い、シャベルを上に掲げた。

 シャベルに付いていた土がカナの肩にかかる。

 リクは短く嘆息を吐き、妹の肩を優しくはたきながら、「そっかぁ、流れ星さんがくれたんだ、その種」と顔を綻ばす。土の上に落ちていた種を、流れ星か何かだと勘違いしているのだろうな。リクはそう思った。

「うん! 流れぼちタンがくれたの」

「ふうん、じゃあ、何が生えてくるんだろうね? やっぱり、星かな?」可愛い妹の可愛い夢物語に、リクは気持ちが朗らかになった。

「うっとねぇ、あたらしく、ほしをつくりなおすんだってー」

「流れ星さんがそう言っていたの?」

「うん! 流れぼちタンが言ってたんだよぉ」

 リクはカナの頭を、髪を梳かす様に撫でて、「お星さまの実、なるといいね」と囁いた。

 カナは頷き、ヒマワリの様に破顔した。


 翌日。

 既に葉が萌えていた。色は緑で普通の広葉樹の様だった。が、新芽はキラキラと細かく輝いていて、リクを少なからず驚かせた。

 ――本当に星の種だったりして。

 リクはそんなことを考えた。

 それから日に日に「星の種」は成長し、目に見える速度で木になり、樹へと姿を変えていった。

 どこまでも巨大に、どこまでも枝を伸ばし、どこまでも広域に葉を茂らせる。葉は相変わらず、謙虚にではあるがしかし煌びやかに輝きを放っていた。

 「星の樹」はリクたちの住む家の庭には納まり切らず、その枝は街をも覆い隠すほどに張り巡り、街は昼だというのに夜のように暗かった。

 しかし街はその樹を伐採することをしなかった。その夜の様な暗さの中、星空の様な美しい光景が評判となり、「星の樹」のお陰で街は観光地として大いに活気付いていたからである。


 それから更に数カ月後。

 星の樹は、巨大な実を付け始めた。それはまるで地球のような、美しい惑星を模していた。

 その「星の実」が大きくなっていくに連れて、樹は更に急速な成長を遂げ、終には、街を破壊し、日本を飲み込み、地球を割って、吸収し、地球の代わりにその「星の実」を宇宙へ落とした。

 地球は壊れ、循環し、生まれ変わったのだ。

 墓地から生えた、一輪の花のように。

 星の樹の葉たちはいつの間にか宇宙の闇に溶け込んでおり、新たに生み落とされた水と土と緑の惑星の周囲を、過去の星を偲ぶように輝き、そしてまた、復活を祝う様に瞬いていた。


 星を殺したのは、小さな小さな種でした。

 星を腐らせたのは、小さな小さな生き物でした。


 「キミにいいものをあげよう」

 「なぁに?」

 「星の種だよ」

 「わ、ありがとー! おにいちゃん、ガイジンさん?」

 「ぼくかい? ぼくは――流れ墓地。星の掃除屋さ」

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