118話 病院で(4)

「ねぇ葵。俺いちおう俺病人っていうか怪我人っていうかそんな感じの人なんだけど。俺がいうのもなんだけど」


「ん? 祐くんどうしたの?」


「どうしたのって言われてもな…」


 病院の少し大きめのベットにまさかの入ってきた葵。点滴しかしてないので少し避ければそりゃ入れないことはないんだけど。


 でも普通入ってくる? そりゃ誰も来ないなら俺は全然いいんだけどここは病院。看護師さんとかもしかしたら知り合いとかも来る可能性だってある。


「今日は私を心配させは罰です。きっちり受けてもらうよ」


 そう言ってぎゅーっとしてくる。でも全然苦しくないしむしろ心地良い。葵も俺の無理のない範囲でこうしてるってことだな。たぶん俺も体調が悪かったらこんなことしないもんな。葵から見ても回復に向かってるってことか。


「そういうことなら俺に拒否権はないな。本当に心配させてごめんな」


「ううん。もう大丈夫。ちゃんとこうやって祐くんの温もり感じれてるから」


 やばい。すごいかわいい。こんなこと言ってくれる彼女って本当に。発作とかじゃないけど心拍数上がりそう。


「でも倒れた時は本当に怖かったんだからね。そこは何回も言わせてもらうよ。日ごろから困ったりしたら私たちに言ってくれていいんだからね? 私たちは祐くんに頼られて困ることなんてないんだから」


「うん。ありがとう。ほんと俺って成長してないよな。文化祭の時から。あの時も…」


 文化祭の準備。あの時も俺は一人で抱え込んで準備に追われていた。文化祭一緒に回るっていう約束を果たせないかと思った。


 私を頼って! 葵が俺にかけてくれた言葉。それに 「うん」 って言ったはずなのに。


「祐くんは優しくから人に迷惑がかかっちゃうとか思ってるのかもしれないけど…結婚して夫婦になったらもっと私たちの前にいろんな事が起こるんだから…夫婦っていうのはお互いに助け合っていくものなんだから。私に遠慮は無用だよ。でも私もいろんなことを遠慮しないけどね」


 恥ずかしげもなく、そして当然のように夫婦とか言ってくれる葵。いろいろ遠慮しないってところに怪しさを感じたけどそれ以上に葵の優しさが嬉しかった。


「お兄ちゃん!? 大丈夫なの!?」


 ノックなしで思いっきり入ってきたのは鈴だった。俺のことを心配してくれる人がいるのは嬉しいけどタイミングが悪かった…


「お兄ちゃん…倒れたとか聞いたから焦って駆けつけたのにこれはどういう状況なのかな? こんなところまで彼女とイチャイチャしたいの?」


 いや、これは違うんだ。俺何もしてないもん。罰だよとか言ってたけどまさかこれも込みでって言うことなのか。策士葵。恐るべし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る