109話 親父と風呂

 8時すぎ。俺たちはホテルに戻ってきた。夕食はホテルじゃなくて別のところで食べたから、今日はもう帰って寝るだけ。


 そう思っていたけれど大浴場と書いてある看板を見てしまったのでこれは行かないとということで俺は部屋から着替えを持って一階の大浴場へ来ていた。


「うんうん、やっぱり風呂だよなぁ。この広々とした空間。はよ入ろ」


 ちゃんと先に身体を洗って湯船に入る。すごい気持ちいい。いつもの風呂と違ってこれだけ広いと足も伸ばせるし最高。なんかオヤジくさいな。


 温泉じゃないいつも俺たちが使ってる水と同じなのに全然違うこの心地よさ。ほんとなんでだろ。


「はぁ、混浴とかじゃなくてよかった。マジでがっかりしてたからな葵」


 俺が大浴場行って来るって言った時葵が言った。


「それって混浴あるの!? あるなら私と入ろっ!」


 あるわけないと思ってたけどもしあったら確実に連れて行かれたな。うんうん。それはかなり危ないだろう。


「なんにせよ、ゆっくりしときますか」


 そう俺がぼーっとしようとした瞬間。


「祐輔なんだなんだ。お前も来てたのか」


 横に親父が入ってきた。なんで来ちゃうかなぁ。1人優雅にしたかったのに。(他に人はいるが)


「まぁまぁたまには親子でこういうのも良いだろ。俺もお前に言いたいことあったしな」


「何かあった?説教なら聞かんぞ。ほんと俺に案内役させてさ」


「説教なんかせんわ。そんな面倒こと。それに今のお前に説教することなんてないだろう。良くやってるよお前は」


 まぁ説教はないと思ってた。だって何も悪いことしてないし。ただ褒められるとも思ってなかった。


「それで話って?」


 さっきまでダラーっとした顔だった親父が真面目な顔つきに変わった。なんだなんだ。やっぱり説教か?


「葵ちゃんのこと好き過ぎだろお前」


「は?」


 真面目な顔していうとこはそれか?ちょっと拍子抜けしてしまった。つーかなんてこと言ってんだよ。


「いや、だからお前葵ちゃんのこと好きすぎるだろ。なんだよ離れ離れになった時はあれだけ落ち込んでたのに。ほんとやだやだ。デレデレな祐輔なんて困っちゃうぜ」


 こんなキャラだったか親父って。絶対こんなんじゃなかった。デレデレな祐輔ってなんだよ。


「まぁそれは大いにいいことだ」


「ああ、そうなのね。なんか照れるけど」


「それは文句ないが。お前、身体大切にしてるか?」


 急に変な質問が飛んできた。でも俺は風邪なし、怪我もしたことない。


「もう、ハードボールのピッチャーをやって何年だ。一人でずっと投げてきて。ちょっと心配になっただけさ」


「限界だって言ったらどうするんだよ。自惚れてるかも知れないが俺がこのチームの、エース葵のバッテリーなんだよ。あと1年くらい投げ切って見せる」


「そうか。なら俺は何も言わん。限界って言ったら葵ちゃんに連絡してお前を葵ちゃんちに監禁だな。そうしないと言う事気なんだろうからな」


「そっか。とにかく俺は大丈夫」


 俺は宣言した。こんな場所だけどこれは大事な俺自身への誓いだ。


「じゃはよ孫見せてくれよ。楽しみにしてるわ」


 いやもう親父壊れちゃってるよ。




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