344 襲撃


 教会で暇をしている間は本を読んで過ごした。


 風魔法以外ろくに使っていない俺は他の系統の魔法に関しても知識が必要だと思ったからだ。

 教会だけに女神様関係の本が多かったが、一応魔法の本もあった。上級の本もあったので熟読した。実際に使ってみないとなんとも言えないが、使えるとは思う。


 なんせ一月以内にパルスェットとかいう魔族の部下が攻めてくるのだ。備えはしておかないとな。


 パルスェットというのは多分四天王の一人だろう。キリングという奴は部下の部下だと言ってたから、こないだ盗み聞いた奴らは少なくとも同僚かそれ以上だと思われる。


 特にまとめ役的なのは実力も認められてるようだったから直属の部下、幹部だろう。もしかしたら最初の襲撃にいたという雷魔法を使うやつかもしれない。


 一発の雷魔法で騎士の大半を痺れさせるほどの魔法を使うのだ。相当な実力の持ち主だと思ってもいい。


 雷魔法と風魔法は相性がいい。大別すれば同じ風魔法だからだ。

 だからこそ他の系統の魔法を使えるようになろうと読書に集中している。相性が良いと、同時に発動すると強化されるのだが、逆に防ぐ側になるとうまくいかない事があるのだ。


 雷魔法を阻害するなら地魔法がいいだろう。だけど、広範囲に放たれたら妨害も無理だ。どれだけ効果があるか分からないが、風魔法で魔法防壁を張っておいて、軽減するしかないだろう。


 ともかく魔族さえ倒してしまえばあとは魔物だけだ。騎士が動けさえすれば防衛は可能だろう。


 一応襲撃に関しては教皇様にも伝えておいた。魔術師を集めて対策を練ると言っていた。




 ズドンッ!


 強力な魔力を感じたら大きな音がした。


 どうやら敵襲のようだ。思ったよりも早かったな。まだあの盗み聞きから2週間しか経ってない。


 急いで城壁の上に上がると、魔物が大挙して迫っており、先頭にはローブを着た男が歩いていた。


 連続で魔法を使っているようで城壁が少しずつ剥げている。石造りなのでまだ保っているが、これ以上破壊されると修復も大変そうだ。



 俺は風魔法で魔物の集団の先頭をなぎ払おうとしたが、魔族の近くだけは邪魔された。たぶんあれが魔力の撹乱というやつだろう。俺も覚えたい魔法だ。


 遠距離では埒が明かないと思った俺は城壁を降りて魔族の前に立つ。


「お前が魔族か。名前を聞こう」


「死ぬやつに名乗る名前はない。おそらくお前がジンとかいう冒険者だな。城壁の奥に隠れていればまだ数日は生きて入られてのにな」


「何街が陥落するのを前提で言ってるんだ。今日がお前の命日だ。前は逃したようだが今日は逃げれると思うな」


「ふん、こっちが引いてやったというのに傲慢な事だ。情報は正確さが命だぞ?歪曲された情報を鵜呑みにするのは危険だぞ?」


 正論だが、魔族に言われると腹が立つ。


 俺は剣に魔力を込めて切り掛かった。


 魔族も剣を抜き、受け止める。


 鍔迫り合いになったが、どうやら魔族の方が力が上らしい。俺は押し返されて数メートル離されてしまった。


 ズピュンッ


 雷魔法だ。思わずとっさに風魔法で対抗しようとしてしまったが、威力は半減したものの肩を焼かれてしまった。左手で良かった。右手なら剣が握れないところだった。


「ふん、風魔法使いか。俺の雷魔法は防げないようだな。つまりお前には勝ち目はないという事だ。素直に降伏するなら命は助けてやらんこともないかもしれんぞ?」


 それって助けないって言ってるようなもんじゃないか。それにとっさに風魔法で防御しようとしてしまったが、次はちゃんと土魔法で防御するから大丈夫なはずだ。


「ふん、雷魔法しか使えない単純バカに言われる筋合いはないな。魔物に守ってもらわなくてもいいのか?」


「ふん、お前ごとき俺一人で十分だ。それにお前相手に魔物を消耗させるわけにもいかんからな。これでもくらえ!」


 さっきよりも太い雷の魔法が飛んでくる。今度はちゃんと土魔法の魔力を練っていたので綺麗に防ぐ。


「何?土魔法も使えるのか?ならこれでどうだ!」


 魔族は剣に雷魔法を付与したようで、剣がパチパチと光っている。


 俺も剣に土魔法を付与して剣を防ぐ。


 何度も剣の応酬が続くが、どうやら剣技の腕はそれほど変わらないらしい。力は向こうの方が上なので押されてはいるが、凌ぐだけなら問題ない。


 ここは少しでも話をして情報を集めるのが有効だろう。相手は街を攻め滅ぼす気がないのはこないだの盗み聞きで分かってる。適当に消耗させたら引くのだから、その間に少しでも情報を集めたい。


「お前の上司のパルスェットとか言ったか?この程度の腕の部下しか持ってないようなら大したことはないな」


「何故あのお方の名前を?!貴様は知りすぎたようだな。お前だけはここで殺す!」


 おっと煽ったのはいいけど煽りすぎたようだ。


 お互いに剣に付与する魔法の威力が高くなり、剣をふるうたびに周囲の地面がめくれあがる。


 カキン、がしっ!


 このままでは俺の方が体力切れで負けてしまうので、剣劇の合間を縫って罠を仕掛ける。


 地面には土魔法で簡単な落とし穴を作り、空中には風魔法で糸のような切れ味の鋭いものを張り巡らせる。


「ふんっ!」


 魔族は俺が魔法を使ったのに気づいたのだろう。魔力を撹乱して準備した魔法を潰された。


 こうなってくるともう体力を魔力の多い方が勝つという単純な勝負になってくる。俺も魔力の量には自信があるが、魔族の魔力量は分からないので不安が残る。


「そろそろ時間か。お前を倒しきれなかったのは残念だが、騎士の魔力も矢も消費したようだし頃合いだろう。悪いがここで終わらせてもらう」


 強力な魔法がくると土魔法の魔力を練るが、魔族が使ったのは攻撃魔法ではなく転移魔法らしい。数百メートル先に転移したようだ。


 そのまま光魔法を体に纏い、すごい勢いで去っていった。転移の魔石は使わないんだな。



 それはそうと、魔物をどうにかしないと。俺が魔族を抑えていたので騎士たちにはまだ被害がないようだが、魔物は城壁にとりついている。風魔法で切り刻んだら城壁にも被害が出るので対処が難しい。


 とりあえず後方の魔物は風魔法で順番に倒していくが、城壁近くのは騎士に任せるしかない。



 普通篭城戦では弓矢を中心に、城壁にたどり着いた者には熱した油や石などを落として梯子ごと壊すのが定石だが、魔物は梯子なんて使わずに直接登ってくる。

 なので油や石などがほとんど意味をなさず、矢で倒して行っている。魔法もあちこちで使われているが、散発的であまり有効打にはなってないように見える。



 俺も風魔法で飛んで城壁に戻り、ちまちまと風魔法で倒していたが、ようやく魔物を倒し終わったようだ。


 人的被害はなかったようだが、矢は大量に消費したようで、補充が間に合ってなかったらしい。


 魔族が消耗させるのが目的だと言ってたのでこれではいいようにやられたのと一緒だ。


 一応教皇様には消耗が目的だというのも話してはいるが、前線で矢を使うなとも言えないので困ってるんじゃないかな。




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