343 情報交換


 男を追って酒場を出る。


 一応魔力を抑えてはいるが、俺のスキルに魔力の隠蔽はない。魔力感知はあるんだけどな。今まで魔力を隠そうだなんて思ったこともなかったからな。


 男は酒場を出てからも他の酒場を梯子しているようだ。中に入るとバレる可能性が高いので中でどんな話をしてるのかは知らないが、さっきの酒場での話からして冒険者の情報を集めるのだろう。



 何軒かの酒場を梯子した後、男は南の方、つまりスラムの方に向かった。情報屋にでも心当たりがあるのだろうか?

 俺は利用したことがないが、噂では情報屋はスラムに居を構えてると聞く。男に伝手があるのかは知らないが、情報を集めるなら情報屋を知っててもおかしくない。


 男はある廃屋に入っていった。ノックもしなかったから情報屋ってわけではないのだろう。もしかして単にここに住んでるだけとか?


 ドアの隙間から明かりが漏れたので裏口から出て行ったとか言うオチはないと思う。


 廃屋が見える脇道から覗いていると、男と同じようにフードを被った奴が何人か入っていった。皆魔力が高いから冒険者だとしたらSランクのパーティー。それも魔術師が中心となった。


 だけど魔術師が中心となったSランク冒険者というのは聞いたことがない。


 ならやはり魔族か?


 魔族が人間の情報を収集しているのは冒険者が襲われていることや、聖遺物のありかを事前に知っていることから確実だ。それがこう言う形で行われている可能性もある。

 だけど、この街が首都だとはいえ、魔族が四人も配置されてるのだとしたら他の国も含めると一体何人の魔族が入り込んでるんだ?


 とにかく中の会話が聞きたい。


 だけど風魔法で音を拾ったら多分気づかれる。あれだけ魔力があって魔力感知が出来ないってことはないだろうし。


 仕方ないので出来るだけ足音を立てないように廃屋に近づく。こんな事なら狩人系のスキルも練習するんだったな。



 窓は板で塞がれているが、所詮は廃屋、耳を付ければ中の音を聞くのは問題ない。


「情報は集まったか?」


「新しい情報はなかった」


「俺も一緒だ」


「俺はジンとか言う冒険者が獣人大陸にいたと言う話を聞いたぞ」


「獣人大陸?あっちは別の部隊が行ってたはずだが?」


「ああ、あっちからはそんな話は来てないな。行ってたという話自体がただの噂かも知れん」


「ジンという冒険者ならこないだキリングがやられたそうだな。いい気味だ」


「まああいつ程度にやられるようじゃSランク冒険者は名乗れんだろうしな。まあ最低限の力は持ってるという事だろうよ」


「じゃあどうするんだ?この街にいるんなら襲うか?」


「教会の奥から出てこないらしい。街での目撃情報はなかった」


「なら地道に教会の戦力を削ぐ方が無難か。魔物の補充はどうなってる?」


「本国から召喚石が送られてくる予定だ。数が揃ったら一斉に召喚してまた攻める予定だ。次は俺が出るから結構な戦力を削れるはずだ」


「それなんだが、何で一気に滅ぼさないんだ?パルスェット様に聞いても答えてくれなかったんだが」


「俺にも分からん。だが、今度の勇者召喚が関わってるんじゃないかと考えている。実際モラレス様の部下が邪魔したらしいからな。人間の間では事実は伏せられているようだが、召喚の儀式の最中に近くで魔力を撹乱して妨害したらしい」


「そんなので女神の召喚が止めれるのか?」


「ああ、結局召喚自体は人間がするものだからな。さすがに女神本人が召喚するなら邪魔はできないだろうが、人間が魔法を使うなら邪魔するのも可能だろう」


「それもそうか。ならこれからも邪魔し続けるのか?」


「やろうとはするだろうが、同じ手は使えないだろうな。まあそれはモラレス様が考えるだろうさ。俺たちはパルスェット様の命令を聞いていればいいさ」


「次の襲撃は何時ごろになりそうだ?」


「船が着き次第だな。一月以内にはくるはずだ」


「ならその間は地道に情報収集か。情報屋とかいうのは見つからなかったのか?」


「ダメだな。人間でも会える奴は限られてるらしい。国か冒険者ギルドの紹介がないと取次すらしてもらえん」


「国は無理としても冒険者ギルドなら簡単に登録できるだろう?」


「一応登録してから聞いてみたが、Bランク以上でさらに信用がないとダメらしい。ランクを上げるのもバカらしくてそれ以降は確認していない」


「Bランクの冒険者を脅すかなんかして繋ぎを取るというのは無理なのか?」


「この街にはBランク自体がいない。低レベルのやつばっかりで話にならん。それこそジンとかいうSランク冒険者出ないとな。他の国の奴らならそういう形で情報屋と繋ぎを取ってる可能性はあるが、こっちには情報は入ってきてないな」


「それは仕方がないな。指揮系統が違うからな。パルスェット様経由で情報が回ってくるのを待つしかないだろう」


「ああ、じゃあ次は襲撃のあとだな」


「ああ、それまでにも情報は集めておいてくれ」


 おっとこのまま廃屋に張り付いてたらバレてしまう。


 急いで隠れてやり過ごした。



 ふう、やっぱり魔族だったな。俺の情報も少しだけど漏れてるみたいだし、街に出るときは注意しないとな。街中で襲撃受けたら被害がバカにならない。


 あと一月以内に襲撃があると。それも幹部クラスが参加すると。いい情報をもらったな。次の襲撃時は気合を入らないとな。




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