324 ヤパンニ王国


 結局旧ヤパンニ王国の港町ロアナまで2ヶ月かかった。


 そのうち一月は毎日暑くてへばってたが。


「ああ、ようやくですわね。肌が日焼けしてしまったので、クレンジングクリームを買いなおさないと」


 メアリーが贅沢な事を言っている。まあここまでくれば後は普通に陸路を移動するだけだ。もう気分は国に帰っているのだろう。王都に戻れば王族として扱われるからね。


「リリアも確かザパンニに帰るんだよな?」


「はい。長い事お父様ともあってませんし、一度戻ろうとお思います。もちろんジン様がついてこいというのなら行きますが」


 言いませんよ、そんな事。


「なら今回の依頼が終わったら迎えに行くからまた温泉でも行こうか」


「温泉ですか!それは良いですね!メアリーも行きませんか?!」


「そうですわね。私も報告さえ終われば暇ですし、それも良いですわね」


 もしかしてあのバカ高い温泉宿を想像してるんじゃ無いよね?もうあんな所泊まらないよ?





「ああ、大地がこれほど安心できるとは。地面なんてあるのが当たり前だと思ってましたけど、そこにあるだけで価値がありますわね」


 確かにそうだ。ずっと海の上だと足元が常にふらついているので安心感がない。


「私は久しぶりにお料理がしたいです。船の上では火を使えませんでしたから」


「私はあったかいお湯で体を拭きたいです。水じゃ髪がゴワゴワして」


「私は、、、」


「はいはい、ヤパンニ王国ではそんなに期待しない。今は国を解体してる途中らしいから、満足な宿屋もないかもしれないんだから」


 実際どうなんだろう。国を解体するというのは結構大変な事業のはずだ。官吏まで入れ替えると言ってたので、街の運営や警備なんかに不安が残る。


「ジン様、この街で唯一残ったまともな宿があります。今は臨時の役人の宿泊施設として利用しているはずです。そこに宿を取りましょう」


 ああ、そうか。セルジュ様はこの街から船に乗ったんだったな。なら案内してもらおう。




「こちらです。

 ご主人、部屋をいくつかお願いしたいのですが、大丈夫ですか?」


「これは聖女様、申し訳ありませんが、一人部屋が一つしかおりません。先日この付近を治めるという貴族様がこられて、お付きの方のぶんも部屋を取られてしまいました」


「そうですか。仕方がありませんね。

 この街にまともな宿は残ってますか?」


「はい、街のはずれですが、小さな宿があります。昔から家族経営でやってた所ですが、店の主人の誠実さだけは保証できます。

 不祥事で大手の宿が潰れたので、部屋が開いてるかは分かりませんが」


「ならそこに部屋を取りましょうか。ジン様、構いませんか?」


「お任せしますよ。俺にはわかりませんので」


 前に来たときはどうしてたっけな。メアリーの付き添いで来てたから王宮に泊まってたんだっけか。

 あれ、でも海に出る時はここからだったと思うけど、あんまり記憶にないな。



 街の外れにあるという宿は本当に小さな建物だった。これじゃ部屋は十もないだろう。


「すいません、部屋をお願いしたいのですが?」


「いらっしゃい。部屋は空いてますが、何部屋必要ですか?

 当宿には一人部屋と二人部屋しかありませんが」


「では一人部屋を二つと二人部屋を二つお願いします。

 ジン様と私が一人部屋、マリアとクレアで一部屋、メアリーとリリアで一部屋でいいな?」


 俺が提案すると全員がうなずいた。


「承知しました。

 一人部屋が銀貨2枚、二人部屋が銀貨3枚になります。食事は別です。お湯が必要でしたら大銅貨1枚で用意させてもらいます」


 高いな。3倍以上するぞ。


「現在この街は不況で、ほとんどの物が値上がりしています。国がなくなるとかで、商人もあまり来ません。

 先日、この街を治める貴族様がこられたと聞きましたが、それでも果たして景気がよくなるのやら。

 なので今の値段は高騰していますのでご了承ください」


 なるほど、不況か。そりゃそうだな、国がなくなるのに不安にならないわけがない。商人もこなければ物価は上がるし、人の行き来もなくなる。

 冒険者はどうしてるんだろうか?確か獣人大陸に行こうとする冒険者が集まってるって聞いたけど。


「冒険者ですか。それなら冒険者ギルドが長屋を買い取って、冒険者専用の宿を経営しています。ただ、柄の悪いのが多いので、決して安心できるものではありませんが」


 なるほど。


「他にも商人ギルドも同じように長屋を建てて商人の呼び込みをしているようです。あちらは承認専用ですので、一般人は関係ありませんが」


 なるほど。


「冒険者ギルドは仕事の斡旋をしてるのか?これだけ混乱してたら依頼もないと思うんだが?」


「どうでしょうか。冒険者の事はよくわかりません。街中での仕事はほとんどないでしょうが、魔物は出ますので、護衛なんかはやってるんじゃないでしょうか」


 なるほど。


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