241 ミスギルの街 歴史書
歴史の区画はほとんど人がいなかった。
まあ、ドラゴンの骨が見たい人ばかりが来るらしいから、こんな地味なのは求めてないのだろう。
だけど、俺は興味がある。
獣人たちとは昔に別れてしまっているので、お互いに接点がない。なので、別れた後の歴史に意味はないが、その前の記録が残っているのなら、人間にない知識が眠っている可能性がある。
神、魔族、スキル、なんなら魔法に関してでも、何か知らない知識があれば使えるかも知れない。
特にスキルに関して何か新しい発見があればスキル上げに役に立つかも知れない。
順番に見ていくと、奇妙な点を発見した。
ある時代のものがすっぽりと抜けているのだ。
単純にその時代のものが持ち出せなかった可能性もあるが、それにしては図ったように一時代だけが抜けている。
さっきの学芸員の人はいないかな?あ、いた。
「すいません。ちょっとお聞きしたいのですが」
「おや、さっきの方ですね。ええ、なんでもお聞きください」
「あちらの歴史のコーナーなんですが、ある時代だけ資料がないのですが?」
「ああ、その時代の資料は王宮で管理されてるのでこの博物館にはないのですよ。研究のためにも公開してくれるように交渉してはいるんですが、なかなか許可が出ませんで。
資料はありませんが、私でわかる事でしたらお答えしますよ?」
「それでは、その時代にいたとされる『預言者』について知っていますか?」
「預言者ですか。またマイナーな話が出てきましたね。
ですが、そう言う話でしたら、奥でお話ししましょう。私も学者の端くれ。知識を求めるものには寛容です。
お茶くらいは出しますよ」
奥とは言ってもちょっとした休憩所だったが、言ったとおりお茶を出してくれた。
「それで預言者でしたね。
いろんな説がありますが、一番有力なのは神託の巫女という説ですね。神からの神託であれば未来を見通してもおかしくありませんから。
ですが、その当時から教会はありましたし、教会は巫女として認めていませんでした。なので一番可能性が高いにもかかわらず教会に配慮して断定していません。教会が神託の巫女を見落としてたなんて言えないですからね。
次に有力なのが、預言者は存在しなかったという説です。先程の話と矛盾しますが、存在してなかったのであれば教会が認めてなくても当然、という感じですね。
預言者はいろいろと未来を語ったそうですが、その証拠は人伝に伝わっているだけで、明確な証拠がありません。預言者の見た目すら話に残ってないのですから、実在を疑うのも仕方がありません。
最後に考えられているのは、教会が認めていない神、つまり邪神の巫女という説ですね。これなら教会は巫女と認めるはずもないですし、未来が予言できることも納得がいきます。
ただ、邪神の存在が証明されていませんので、あまり有力な説にはなっていません。邪神の信者は大概が金儲けの団体ですから。
預言者に関してはこの3つくらいでしょうか。何か疑問などはありますか?」
「結構詳しく説明してもらいましたが、よくこんな話を知ってましたね?」
「私の専門分野ですから。勇者もドラゴンもいいですが、私は歴史書の方が性にあってますので。資料に載っていない部分を想像するのは楽しいと思いませんか?夢が広がるというのでしょうか。
学芸員の中では浮いてしまっていますが、研究され尽くされたドラゴンの骨よりも余程将来性があると思っています。時間はかかるでしょうが、ライフワークだと思えばなんてことはないですよ」
典型的な学者だな。賞賛に値する。
それにしても『預言者』巫女説か。まあ妥当なラインだとは思うけど、神様関連だからなぁ。どこまで信用していいのやら。俺に関する神託なんかポロポロ出てくるくらいだしな。
それに本来は巫女でも神託を受けない人の方が多いらしいし。
確率から言うと、預言者として名前を残すほどに神託を受けた人がいるとは思えないんだよな。
それに王宮が資料を公開してないのも気になる。何か隠してると思うのが正解だと思うけどどうなんだろうか。今度フェリス様に聞いてみるか。
「ジン様、何か興味のある展示はありましたか?」
「リリアこそ何か面白いのはあったのかい?結構な時間かかっていたようだけど」
「ええ、貴族のドレスの流行りすたりという展示がありましたわ。時代ごとに流行ったドレスが展示されていて綺麗でしたわ」
なるほど、それも歴史と言えるな。
女性なら見ているだけでも楽しいだろう。
「それはよかったな。メアリーはどうした?」
「まだドレスの部屋にいますわ。なんでも展示してあるドレスを注文できるとかで値段の交渉をしていましたわ」
げ、買うつもりか。宮廷で着られていたドレスなんて1着いくらするのやら。自分の小遣いで買うんだろうな?
「ジン様におねだりすると言ってましたわよ?」
何?それは止めないと。俺は払わんよ?
「リリア、すぐにメアリーを止めてきてくれ。俺はここでマリアとクレアを待ってるから」
「了解ですわ。メアリーったら本気で買うつもりかしら」
早く行って止めてきてくださいな。
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