205 ヤパンニの荒廃


「本国より、獣人国への訪問の許可がおりました。

 正確には獣人国への布教ですね。

 同じ神を奉じているのであれば、受け入れやすいだろうとの事です。

 聖女としての仕事ですが、皆さんはついてきていただけませんか?」


 どうやらこの大陸だけじゃなく、隣の大陸まで女神教を広げようとしているらしい。まあ分からんでもないが。


「布教とか関係なくていいなら獣人国へ向かってもいいな。

 メアリー、リリア、どうだ?」


「はい、興味はありますわ。歴史にすら残っていない獣人ですもの。どんな生活しているか、どんな文化を持っているか。

 それに国との国交はあっても害はありませんわ。ザパンニのためにもなります。

 王女として国同士の友好に尽力を尽くしたいですわ」


「いや、今更王女を持ち出されてもな。ただのメアリーとしてパーティに加わったんじゃないのか?」


「チャンスがあれば国のために働きますわ。もちろん、ジン様が反対なら行きませんわ」



「私も行ってみたいです。古代王国の伝承が残っている可能性もありますし」


「そういえばリリアは古代語魔法に関して調べてたっけな。確かに古代王国時代に別れたということはこちらと違う伝承が残っている可能性もあるな」


「ええ、ジン様も魔法にはご興味がおありでしょう?」


「ああ、興味はあるな。ただ獣人は魔法が得意でないと行っていたのが気になるが」


「魔法が使えないのと、伝承が残ってないのは違いますわ。文献という形で残っている可能性もありますし。この大陸では戦争などのせいで貴重な文献が残っていませんが、別の歴史を歩んだ獣人国にはある可能性がありますわ」


「確かに。ならば行くと言う事で進めようか」



「セルジュ様、そういう事で、行くことを前提にしますが、いつ頃向かう予定ですか?」


「イングリッド教国の船を回してもらえることになっています。一月後にヤパンニ王国のロアナで合流の予定です」


「なら俺たちも急がないといけないな。マリア、準備を頼む」


「お任せください」



 この大陸では帝国の内乱などにより、貴重な文献が多数焼かれてしまっている。しかし獣人国はそんなことはないだろうから、新しい発見があるかもしれない。俺の持っている魔法で使い方のわからない魔法の使い道も見つかるかもしれない。



 二十日後、俺たちはヤパンニとの国境に来ていた。

 国境では検問が敷かれており、特にヤパンニから入国する人たちに入国理由などを詳しく聞いていた。俺たちは出国する側なので、簡単に通れたが、帰りは厳しく調べられるので注意するように、との事だ。

 やっぱりヤパンニの治安が悪いせいだろう。

 だけど、本当に逃げたい人は検問なんて通らないと思うんだよね。壁があるわけでなし。真面目に通るのは真面目な商人だけじゃないだろうか。



 ヤパンニ王国に入って三日、王都についた。

 王都は相変わらず寂れていて、本当に王都?と言いたくなるくらいだ。戦後賠償などもあったようだし、ヤパンニ王国の財政は火の車だろう。商人が逃げ出しているという話も聞くし、税収も下がっているだろう。

 塩の売り上げで立て直せるといいね。


 さて、王都に用事はないので、そのまま二日してロアナに着いた。

 港町なので、王都よりも活気があった。他の国との交流があるからだろう。ベスク王国の商船とかも入港しているらしいし。売りに来るのはいいけど、帰りに買って帰るものなんてあるのかね。

 メアリーに聞くと、商売のためでなく、支援物資を運んでいるそうだ。陸路よりも早く、大量に運べるからね。


「それで、メアリー。ヤパンニ王国に援助して、立て直せるのか?」


「難しいかもしれません。王宮でも支援を打ち切ってもいいのでは、という説は浮上しています。ただ、国としてなく立ってもらわないと、あのどうしようも無い地域を我々が管理しなくていけなくなるので、遠慮したいところです。

 ベスク王国が貰ってもらえませんかね?安くしておきますのに」


 実際ベスク王国からは、極秘に2分して管理しようという話も来ているらしい。いや、極秘の話を俺にしてもらっても困るよ?


 基本はロアナの港町としての機能と、塩の産地としてが期待されている役割だ。それ以外の農産物は自国内でも足りないくらいなので、援助に頼っているのだ。


 ヤパンニ王国は援助の中のいくらかを使って、炊き出しを行ったりしているようだが、それよりも働く場所を確保してあげたほうがいいように思う。

 働きたくても働けない人もたくさんいるだろうし。


 ヤパンニの文官、総入れ替えとかダメなのかな。俺には国政はわからないけど、上が変わらないと下も変わらないと思う。

 そういえば、森林型のダンジョンがあるというのはどうなったのだろうか。貴重な薬草が取れるそうだが。


 ベスク王国から冒険者が派遣されて、収集を続けているらしい。冒険者ギルドは機能しているようだね。

 一応ギルドの掲示板を見てみたが、やはり北の森林型ダンジョンへの採取依頼が多かった。他はEFランクの雑用だね。


 イングリッド教国の船がまだつかないので、Sランクのギルドカードを提示して、何か依頼がないかと聞いたところ、それだけの依頼料を払える人がおらず、依頼がないそうだ。まあ、Sランクの依頼は最低でも大金貨単位だからね。


 そんな訳で、船が来るまで高級宿で泊まって暇をしていた。高級宿?他に安全が確認できる場所がなかったのだ。今の情勢を見るに、宿主が盗賊行為をしてもおかしくないとかで、宿は慎重に選んだほうが良いとギルドで説明を受けた。その時に紹介してもらったのが、この高級宿だ。高いお金を取るだけあって、警備も雇っているが、食事はまずかった。ちゃんとした食材や調味料が手に入らないらしい。



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