133 封印の剣 (1)


1月3日、俺はふと思い立ち、冒険者ギルドに赴いた。


「アイリスさん、お休みじゃなかったんですね」


「ええ、冒険者に3ヶ日は関係ありませんからね。受付も交代で休みを取ります」


「それは大変ですね。なら、今でも依頼はありそうですね。何か良さげなのはありますか?」


「うーん、今の時期、あるのはFランクやEランクのばかりですね。大きなのは緊急でない限り、出来るだけ3ヶ日を外しますし。ちょっと待っててくださいね」


アイリスさんは後ろの事務室に行って書類を確認し始めた。

そのうち、一枚の書類を持って帰ってきた。


「今あるのはこれくらいでしょうか?」


「『封印の剣』の解放?封印の剣というのは、以前俺が見つけた洞窟にあった剣ですか?」


「はい、そうです。調べた結果、瘴気を振りまく魔獣の可能性が高く、一度封印を外して浄化してしまおうという計画が持ち上がってまして。このままですとダンジョン化して危険ですし。今は神官が定期的に封印を強化して対処しているところです。そこで、封印を解く勇者を探しています。勇者とは名はいいですが、生贄に近いです。封印を解いた後は封印されている魔獣が解き放たれるのですから」


「俺のところに持ってきたのには訳があるんだろう?」


「ええ、ジンさんなら魔獣もなんとか出来るんじゃないかと思いまして。Sランクですし」


「俺はそんなに大したもんじゃないですよ?」


「何を言ってるんですか?ドラゴンを倒したんですよ?世界中のSランク探してもドラゴン倒したのはいませんよ」


「それでその依頼、条件は?」


「はい、剣を抜くこと。報酬は金貨10枚です」


「剣を抜いた後の魔獣は?」


「特に決まっていません」


「そうか、それならその依頼は無しだな。魔獣が解放されると分かっていて、対応が決まってないんじゃ、信用できない。魔獣が解放されて、俺が倒してとして、研究材料として生かしてとらえるつもりだったと言われても困るしな」


「そこまでは無いと思いますが。まあ確かに不親切な依頼ですね。わかりました、他の方に勧めてみます」


他の冒険者には悪いが、報酬につられて生贄になってくれ。俺はそんな面倒ごとに首を突っ込むつもりはない。せめて討伐時の報酬が書いてあれば検討したのに。




面白い依頼もなかったので、買い食いしながら屋敷に戻ると、リリアが走っていた。真面目に3ヶ日にも走っているとは。あれ?でも昨日は走ってなかったよね?たまたま時間があったのだろうか?


夜の食事では、ギルドの依頼の話になった。


「なるほど、以前見つけた封印の剣か、あれならどんな魔物を封印していてもおかしくないな」


クレアが独り言ちるがリリアは違った。


「大変じゃないですか。お父様はご存知なのかしら?」


「さあ、どうだろうな。でも知らないなんて事はないんじゃないか?流石に現場が勝手に封印を解くとかないだろう」


「でも、封印を強化するならともかく、解放するなんて、おかしいです。お父様に聞いておきますわ」


「ああ、そうしてくれ。街が解放された魔獣で襲われるなんて考えたくもないしな」


さて、ドゴール様はどう出るか。

リリアにはああ言ったが、多分、ドゴール様はこのことを知らない。あの人はそんな危険な賭けはしない人だ。とすると現場の人間だが、全員が賛成したのだろうか?賛成したのは研究者か神官か。



1週間後、封印の剣が抜かれたらしい。抜いたのは腕自慢のDランク冒険者だ。ギルドで噂になっていた。

抜かれた後、黒いもやもやが冒険者にまとわりつき、体に染み込んでいたらしい。そして完全に染み込むと、目を真っ赤にして周りの人間に斬りかかったという。封印の剣を使って。

周りの人間が、被害を出しながらも取り押さえ、魔力封印の首輪で縛って王都に輸送しているらしい。


封印の剣や冒険者の男の状態など、宮廷魔術師と神官とで研究するそうだ。

冒険者の男は復帰は無理だな。ずっと牢屋の中だろう。それも実験付きで。

俺が受けていたら、そうなっていたのは俺の方だろう。受けなくて正解だ。


リリアに話したら、ちょうどドゴール様から連絡が戻ってきたらしい。ドゴール様は止めようとしたが、現場が強行したそうだ。強行に行ったのは神官らしい。瘴気は神に逆らう邪神の使いだとか言って、浄化しなければいけないとか。

それに、研究者は、瘴気がなぜ発生するのか、どんな性質を持つのか、など、不明な点が多く、封印の剣を抜くのは自分たちの利益になる上に、神官のせいにできるので、見守っていたらしい。


狂信者と研究者は怖いね。何するかわからない。


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