第129話 勇者因子

アードラー三兄弟を下した事で、他の村人達は抵抗する意思をなくし、大人しく俺の傘下に入る事を了承してくれた。三兄弟はそのまま村を出て俺達と一緒に行動する事になった。




「では改めて名乗らせてもらおう。俺はグラディウス。三兄弟の長男だ。得意な獲物は剣で、持っているスキルは『自然治癒:強』だ。これは体に受けたありとあらゆる負傷を瞬時に治す力のあるスキルだが、体力まで回復してくれるわけではないので、そこのシーリには敵わなかったがな」




苦笑しながらもどこか清々しさを感じさせる挨拶からは、グラディウスのサッパリした性格を窺わせるのに十分だった。




「俺はランケア。次男で、スキルは『範囲無効:弱』だ。知っての通り任意の空間のスキル発動を打ち消す力がある。獲物は槍だ。よろしく頼む」


「俺は三男のファルシオンだ。スキルは『高速移動:弱』で、直線距離を一瞬で詰める事が出来る。便利なスキルだが、発動してる時は曲がれないって弱点がある。大剣が得意だから何か面白い武器があれば分けてくれ」




ランケアとファルシオンの二人も、さっきまで殺し合いをしていたと思えないほど友好的な態度になっている。ハグリーやレザールなどは同じような性格をしているので彼等と気が合うのか、早速打ち解けているようだ。若干人見知り気味な俺としたら羨ましい社交性でもある。




「ケイオス様! 私の戦い、見ていただけましたか!?」


「ああ、ちゃんと見てたぞ。流石シーリだな。凄い強さだ」


「お褒めにあずかり恐縮です!」




上機嫌で、まるで今にも犬のように尻尾を振りそうなシーリ。俺はそんな彼女を見ながら、さっきケニスに聞かされた話を思い出していた。




§ § §




「シーリがユニークスキル持ち?」


「その可能性は高いよ。今回彼女の戦い方を見た限り、あれはどう考えても普通の身体能力じゃないと思う。自然治癒を続けているグラディウスを圧倒するんだ。何かしらのスキルの影響と考えるのが普通だろう?」


「うーん……」




ケニスの話は半信半疑だったが、言われてみれば確かにシーリは不自然なまでに強すぎる。彼女は確か、軍事国家アルクスの工作員とか密偵とかそんな役割だったと思うのだが、普通そんな役割の人間がそこまで強いものだろうか? 現に何度か奴等を撃退しているし。しかしまぁ、一応聞いておいても損は無いだろうと思い、俺はシーリにスキルや以前の生活について聞いてみる事にした。




§ § §




「私の以前の生活ですか?」


「ああ。そう言えば詳しい話を聞いていなかったなと思ってさ。気になるんで教えてくれないか?」


「構いませんよ。ケイオス様がお望みなら、いくらでも話して差し上げます!」




嬉々として語り始めたシーリの話に、俺達や新たに仲間になったアードラー三兄弟は黙って聞き入っていた。俺の予想通り彼女はアルクスの工作員だった。工作員は基本裏方で、すねに傷を持つ連中がやる仕事だと思っていたのだが、どうやら彼女はそうではないらしい。それなりの名家に生まれ、幼い頃から何不自由ない生活を送ってきたと彼女は言った。




「それもこれも、私の一族が勇者の血筋に連なるからです」


「……は?」




シーリの言葉に全員が絶句する。今彼女は勇者と言ったのか? あの魔族の仇敵とも言うべき存在である勇者と。絶大な力を持つ魔王と同格の、あの勇者の血筋? それが本当なら名家どころの話じゃ無い。意外すぎる人物が出てきた事に、誰もが驚きを隠せなかった。




「シーリ……勇者の血筋ってのは……?」




いつの間にか喉がカラカラに渇き、言葉が上手く出てこない。そんな俺を心配そうにするシーリに続きを促すと、彼女は気を取り直して話を続けた。




「私の一族が過去に何人か勇者を輩出した事があるんですよ。最後に一族から勇者が出現したのは、確か百五十年ほど前だったと思います」




彼女の言い方からすると、どうやら勇者というのは限られた血筋から時々出現する強者の事を意味するようだ。滅多に聞けない情報に興味を引かれているのは俺だけで無いらしく、ケニスなど今にも身を乗り出さんばかりで彼女の話に聞き入っている。




「勇者になるには、何か条件みたいなのがあるのか? それとも、たんに一族の中で強いものが勇者として担ぎ上げられるのか?」


「勇者として認められるのは、勇者の因子を持つ者に限られます。その因子を持った中で最強の実力者が勇者と呼ばれるのです。かく言う私も因子持ちですね」


「!?」




つまり、場合によってはシーリが勇者になる可能性もあるって事か? 俺は知らずにとんでもない奴を配下にしていたらしい。仮に勇者が味方だとするなら、魔王と一戦交える時にこれほど頼りになる存在は無いはずだ。半ば浮かれかけたその時、シーリは申し訳なさそうな表情を浮かべて話を続けた。




「もっとも、私の因子はあまり強力なものではありませんから、勇者になるのは別の者でしょう。私に勇者としての力はあまり期待しないでください」




これだけ強いシーリが勇者になれないってのは、俄には信じられない事だった。勇者ってのはどれほど強いんだ? また、それと同等の力を持つであろう魔王の力も計り知れない。今はともかく、将来的にそんな連中が敵に回るかと思うと、なんだか憂鬱になりそうだった。




「ところでシーリ。勇者の因子というのはスキルなのか?」


「スキルですよ。私の持つのはユニークスキル『勇者因子:弱』です。効果は身体能力の強化、体力の増強、耐久力の向上です。スキルが強力になると更に付与効果が増えるみたいですけど、生憎確かめた事が無いのでこれ以上はわかりません」




やはりユニークスキル持ちだったか。それにしても、たった一つのスキルで最低でも三つの効果が常時発動してるだと? 規格外にも程がある。出来ればそんな敵と戦うのは避けたいところだが、それを手に入れられれば俺も今と比較にならないほど強くなれるだろう。




「その因子持ちってのは、どのぐらい存在するんだ? お前の知り合いにいるのか?」


「数はわかりませんけど、アルクスだけで数人いたはずです。因子持ちの知り合いは……残念ながらいません。他の家の事情にはあまり詳しくないので……。お力に立てず申し訳ありません」




心底済まなそうに謝罪するシーリ。ひょっとしたらスキルを手に入れる機会が巡ってくるかと思ったが、そんな思い通りにはならないようだ。仕方ない。一旦この話は忘れて、当初の予定通り勢力範囲を広めるとしよう。


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