第116話 会議

「知っての通り、現在俺達が拠点を構える大森林は、魔族領と人族の領域のちょうど中間地点にある。どちらに支配領域を広げるにしても有利な立地だが、逆に言えばどちらからも狙われて挟み撃ちにされる危険性のある土地だ」




沈黙する仲間達を見渡し、俺は更に話を続ける。




「魔族領は人族の領域と違い、力で自分の領地を広げる事を認められている。現魔王の方針が弱肉強食であるのがその理由だが……ソレはこの際おいておこう。とにかく、それが理由で俺達が各地域の魔族に喧嘩を売るのは合法って事だ。対して人族は魔族領ほど緩くない。仮に俺達が戦争を吹っかければ、各国が団結して対処してくる可能性がある。仮に人族の領域に手を伸ばすなら、支配者層を狙って地道な工作を続けた方が無難だろう。ここまでで何か意見はあるか?」




黙って話を聞いていた中から、ケニスが挙手する。




「話を補足しておけど、確かに魔族領はケイオスの言うように、力で領地を広げる事が許されている。しかしその領地の規模に応じて上納金を要求されるってのを忘れちゃいけないよ。爆弾の威力を持ってすれば領地を広げるのは簡単だと思う。でもそこで上納金を払えなかった場合、魔王は軍を派遣して僕達を潰しにかかるはずだ。それに爆弾がいつまでも通用すると考えない方が良い。使い続ければ必ず対抗策を考えられるだろうし、爆弾の強みがなくなれば、僕達は一気に窮地に立たされるだろう」


「じゃあ、金のかからない人族を狙った方が良いのか?」




声を上げたのはハグリーだ。普段こういう話し合いに口出しする事が少ない彼も、今日は珍しく真剣だ。




「安易に決めない方が良いな。その分人族側は好きに暴れる事が出来ない。せっかくの爆弾が無駄に終わる可能性がある」




リーシュは腕組みをしながら慎重論を唱える。彼女の性格から言って、無計画に事を進めるのは許せないのだ。




「それに人種の問題もあります。例えば魔族領、人族領、どちらか一方に領地を得たとして、その戦力がそのまま反対の陣営に使えるわけではありません。魔族領に人族を従えた勢力が入ってきたら、周辺だけでなく全体が敵に回るでしょう。それは人族の領域でも同じ事です」




シオンが更に問題点を指摘してきた。なるほど、人種か……。今まで俺のスキルの影響下にあるか、奴隷として無理矢理縛るかしていたから、そこには目が行かなかった。




「なら……中途半端に勢力を伸ばすんじゃなく、どちらか一方に集中した方が良いわね。それこそ魔族領、人族領、どちらかを完全に支配してしまってからじゃないと、もう一方には手を出しづらくなるわ」




イクスの言葉に何人かがギョッとした表情になる。ある程度覚悟を決めたつもりで居ても、流石に今の言葉は聞き流せなかったのだろう。




「それってつまり……例えば、ケイオスが新たな魔王になるまで終わらないって事?」


「マジかよ……」




ルナールやグルトはそこまで大事になるとは考えていなかったのだろう。顔色が悪くなっていた。




「そうなるな。中途半端に勢力を広げた状態で戦いを止めたら、生き残りの陣営に反撃されるかもしれん。ならとことんまでやるだけだ」




爆弾の存在が強気にさせている自覚はある。しかし今俺が言葉にしたのも事実だ。やるなら徹底的に、敵対勢力が反撃する気も起きないぐらい叩く必要がある。




「何を恐れるのです!? ケイオス様の力を持ってすれば必ず我々が勝利できます!」




弱気になった二人をシーリが叱りつける。彼女はスキルの影響下にあるため、無条件で俺を擁護する。それがわかっているだけに、二人は曖昧な表情だ。




「……二人の気持ちもわからなくはないけど、ケイオスなら本当にやるかも知れないわ。今まで何度も危ない目に遭ってきたけど、その度に何とかなってきた。それどころか爆弾なんて物を手に入れて、こうやって村まで作ってる。ケイオスならやれる……私はそう思う」




そう言ったのは、一時期俺に敵意を抱いていたラウだ。彼女とは色々あったが、今は良き理解者として俺の側に居てくれている。




「俺も同意見だ。ケイオスなら何とかしちまうだろう」




レザールも賛成。まあ、彼の場合戦うのが好きみたいだから、その欲求さえ満足させてくれるのなら、他の事に興味がないのかも知れない。




「ふん……好きにすると良い。私に口を出す権利はないからな」




そう言って鼻を鳴らすリン。彼女は俺達がどうならうと興味がないのだろう。いや、むしろ失敗して全滅しろと思っていても不思議じゃない。




「……意見は出揃ったようだね。で、ケイオス。君はどうしたい? この集落の長は君だ。どんな意見が並んでも、最終的には君が決める事になる。我々の未来は君にかかっているんだよ」


「…………」




改めて全員の顔を見る。決意を秘めた顔、不安そうな顔、何かを期待したような顔など、表情は様々だ。ケニスの言うとおり、彼等の未来は俺の方針一つで決まってしまう。




(責任重大だな……)




生まれ育った村を出た頃の俺では考えられないような今の状況。ハーフが自らの拠点を築き更に外に勢力を伸ばそうとしている。それだけにとどまらず、魔王の座すら狙おうとしているのだ。無関係な者が聞けば鼻で笑われそうな目標といえるだろう。




「……魔族領だ。まず俺達は魔族領を手に入れるために戦いを始める。邪魔をするなら誰であろうと――たとえ魔王であっても排除する。みんなの力を貸してくれ」




俺の言葉に全員が力強く頷く。これまで何度も厳しい戦いをくぐり抜けてきた彼等だけあって、一旦方針が決まればあっさりと覚悟が決まる。




準備は整った。後は実行に移すだけだ。

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