第113話 尋問
「コイツらが?」
「うん。生き残りだね。襲撃してきたのは全部で二十二人。情報より少し多かったけど、その内の五人が村から脱出する際の交戦で死亡。そして更に六人が設置してあった罠にかかって行動不能になり、残りがリーシュ達との戦いで捕らえられた。もっとも、その戦いでも死人が出たんで生き残りはこれだけだね」
俺の前に捕らわれた連中は傷の治療もされず、縄で縛られ転がされている。流石に重傷者はシオンがある程度治療したようだが、それでも完治させる事は無い。これから始める尋問次第でコイツらの治療が無駄になるかも知れないからだ。
「この中で一番地位の高い者は誰だ? 誰の指示も無くこんな所に来たわけじゃ無いんだろう? そいつと話がしたい」
俺がそう言うと、捕虜達は顔を見合わせた後一人の男に注目した。その男は他に比べて体格が良く、身につけている装備も上等な物に見える。恐らくコイツがリーダーなのだろう。俺がケニスに視線を向けると、彼は心得たとばかりに捕虜の周りで武器を構えていた魔族の兵に指示を出す。つかつかとリーダーの男に近づいた魔族は有無を言わさず男の体を引き起こし、先を行く俺とケニスの後に付いてくる。その後ろでは他の生き残りが引っ立てられて、村の中にある牢へと向かっていった。とりあえずあっちは任せて置いて大丈夫だろう。
「ところでケニス。リーシュ達はどうしてる?」
「彼女達なら休んで貰ってるよ。連中に気づかれないために襲撃前から森に潜んでいたからね。風呂に入って腹いっぱい食べて、今頃はベッドで寝てるはずだ」
「そうか。それならいい」
俺が暢気に寝てる間に彼女達に働かせる形になっていたからな。少し気にしてたんだ。
俺達は屋敷の一室に男を連れてきて無理矢理席に着かせる。当然男の後ろには魔族が剣を携えたまま立っており、何か妙な動きをした途端、問答無用で男を切り捨てるつもりだ。緊張のためか、男は額に汗を浮かべてキョロキョロと忙しく周囲を観察している。これから自分の身に何が起きるのか予想もつかないために不安なんだろう。
「まずは質問だ。お前等の目的を聞きたい。何を考えてこの村に侵入しようとした?」
男は質問してきた俺にふてくされたような態度を取ろうとしたが、笑顔で剣を向けるケニスを見て下手に反抗すれば命が無いと悟ったのか、思った以上に静かな口調で話し始めた。
「……俺達の目的はファウダーとイクスと言う女の身柄を押さえ、回収する事だ。上からの情報で二人はこの大森林に逃げ込んだとあった。ファウダーは殺害しても構わないが、イクスだけは絶対に生きたまま奪還せよとの命令だった」
そう言えばラビリントを脱出した時俺は女の姿だったか。それにしても生死問わずか……まあ、イクスと違って貴重なスキルを持っているでもないただの首謀者だから、当然と言えば当然の扱いか。
「ケイオス。ファウダーと言うのは?」
「ああ、お前はまだ知らなかったか? ファウダーは俺が女の時の偽名だ。つまりこの連中は、今どこにも居ない女を捜していたって事になる」
「ああ……そう言えば変身できるんだったね。直接見た事はないんだけど」
納得いったと頷くケニス。俺が変身するのは基本的に誰かを騙すためだから彼が知らないのも無理は無い。それより今は男から情報を引き出すのが先だな。
「イクスがここに逃げ込んでいるって情報はどこから得たんだ?」
「……確信は無かったが、森の中で魔族の襲撃を受けた時、兵を率いるお前を見た者が居る。滅多にいないハーフが魔族の兵を引き連れて俺達を襲ってきたんだ。何か繋がりがあるんじゃないかと疑うのが当然だろう?」
俺が原因だったか……。ひょっとしてあのまま襲いもせずに連中を見逃していたら戦いは起きなかった可能性もあるな……。いや、それだと村の所在が明らかになって火薬の製造がバレる可能性もあったし、何より魔族の拠点など問答無用で襲われる可能性が高い。俺の判断は間違ってなかったと思おう。
「つまり、サイエンティアはもうここにイクスが居ると思っているんだね?」
「既に、潜入前に事情を知らせに一人本国に帰還させた。ここで俺達がどうなっても、近いうちに襲撃されるだろうさ」
ケニスの質問に、男はどこか勝ち誇ったように薄い笑みを浮かべた。どうやらこの男、もう死ぬ覚悟が出来ているらしい。俺達を絶望させる事で一矢報いたとでも思っているのだろうが、そうはいかない。
「ふーん。大体こっちの予想通りだね。距離を考えると最短で二ヶ月――いや、もう前の戦いから随分経ってるから、一ヶ月ちょっとかな? まあそろそろ硫黄も到着する頃だし、その頃になったら火薬も使えるよ。何とかなるって」
「だな。まあ、この生き残りの連中には俺の兵隊になって、せいぜい役に立って貰おうか」
そう言って、俺は男ににじり寄る。不穏な空気を感じた男が咄嗟に逃げようとしたが、すぐ後ろに居た魔族達に押さえつけられた。
「な、何をする気だ!?」
「なに、ちょっと洗脳させてもらうだけだ。お前はこれから俺のために死ぬまで働く事になる。それに疑問を感じる事もないし、喜んで奉仕したくなるだけだ」
「何を言って……お、おい、止めろ! 止めてくれ!」
「安心しろ。別に死ぬわけじゃない。ただ、自分の命より俺を優先するようになるだけだ」
聞きたい情報は全部聞けた。コイツらにはもう他に利用価値がないし、後は兵隊にして死ぬまで使い潰すだけだ。失敗しても奴隷契約で無理矢理働かせよう。意識の触手を男に伸ばしながら、俺はさっさと街に戻らなくてはな――と考えていた。
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