第112話 睡眠中

一旦ピエスの街まで戻った俺は、リーシュ達を連れて開拓村に戻ったところでぶっ倒れた。目が覚めたのは翌日の昼で、サイエンティアの連中が襲撃してくる前日だった。どうも新しく覚えた『空間転移』は他のスキルほど頻繁に使える訳ではなく、思っていた以上に精神力を消耗していたらしい。リンが言い忘れていたのか、それとも故意に黙っていたのかは確かめようがないが、何となく後者だと予想している。一日の使用回数は二回ぐらいで止めた方が無難だろう。




俺が寝ていた間に、ケニス指揮の下兵隊や奴隷達を使って着々と戦いの準備は進められていた。いつ連中が来ても良いように柵を補強し、櫓の上では数人の見張りが絶えず周囲を警戒している。ハッキリ言って、これだけ警戒されては数で劣る連中が仕掛けてくると思えないんだが、そこは大丈夫なんだろうか?




「前回の戦いでケイオスはもちろん、君等賞金稼ぎの姿はバッチリ見られているしね。魔族との繋がりがあるのは敵も確信しているはずだ。その上でこの開拓村の存在があれば、連中としては調べてみないと気が済まないだろう? 同じ敗れて逃げ帰るにしても、ただ逃げ帰るのと、敵の内情を調べ上げてから帰るのでは受ける印象が違うしね」


「……つまり奴らの目的は本気で俺の首を取る事じゃなく、この村の中を調べるためだと?」


「その可能性が高いと思うよ。まさか二十人そこそこで、武装した集落を落とせるなんて連中も本気で考えないでしょ。恐らくイクス君絡みの火薬の量産体制が最も重要で、どちらかと言えばケイオス、君の首は取れたら良いなぐらいのついでだと思う」


「…………」




個人的にはその方が助かる。しかし俺の立場で「なら良かった」とは口が裂けても言えなかった。




「なら、俺達はこのまま待てば良いんだな?」


「そう言う事。一応見張りに立つ者は弓矢の対策に全身鎧を装備させているし、目の良い者を役目に就けているから、奇襲でバタバタやられるとは考えにくいよ。後は仕掛けてくるのを待つだけだね」




寝てる間に準備は全て整って、俺のやる事は特にないようだ。後は俺もいつでも戦えるように屋敷で待機するかと踵を返しかけたその時、俺はいつも居る連中が側に居ない事に気がついた。




「おいケニス。リーシュ達はどうした?」


「彼女達は村の外だよ。奇襲するためじゃなくて、退路を断つために出て貰ってる。つまり、迎撃は村に居る僕達だけでやらなきゃならない」


「準備してる罠ってのはそれか?」


「そうだよ。一応村の周囲に捕獲用のをいくつか設置してあるけど、気休め程度にしかならないさ。本命は彼女達別働隊だ。リーシュなら上空から監視できるし、何より一騎当千の猛者揃いだ。心配はいらないよ」


「そうかい。じゃあ始まるまで俺は休ませて貰うよ。まだフラフラするからな」




実際まだ完全回復したとは言い切れない体調だったし、連中が村に来るまで半日ぐらい余裕があるはずだから、俺が寝てても問題ないだろう。屋敷に戻った俺は自分の部屋に戻った後、いつでも戦えるように鎧を身につけたままベッドに身を投げ出して眠りについた。




「起きろ! ケイオス! お客さんだ!」




耳元で怒鳴る声に飛び起きると笑顔を浮かべたケニスが立っていた。屋敷の外が妙に騒がしい。兵達が走り回っているためだろう。




「連中はどこだ!?」


「もう来てるよ」




目を覚ました俺に槍を差し出しつつ、ケニスは足早に出口に向かう。慌ててそれを追いかけた。




「襲撃があったのはついさっきだ。リーシュが村に近づいている連中を見つけてね。夜なのによく発見できたもんだよ。偉い偉い」


「そんな事より、今はどんな状況だ? 押されてるのか?」


「うん? 戦闘自体はもう終わってるよ? でなきゃこんなに余裕はないでしょ。君を呼んだのは事後処理をするためだ」




ケニスの話によると、リーシュに発見されたサイエンティアの連中は、こちらが万全の体制で待ち構えているのも知らずに村に侵入しようとしたそうだ。昼間だと当然簡単に発見されるため、動き始めたのは夜になってかららしいが。とにかく動き出した連中はワザと補修作業を途中で止めて置いた壁の隙間から村の中に侵入し、見事に罠にかかった。落とし穴という子供でも引っかかりそうな単純な罠だったが、それだけに予想外だったのか、これで五人ぐらいが行動不能になった。慌てて逃げ出した連中は背後から降ってきた矢の雨に更に何人かが倒され、半分ほどになって森の中へと消えていったそうだ。




そこに待ち構えていたのが別働隊として動いていたリーシュ達賞金稼ぎだ。ただでさえ夜の暗闇の中、しかも撤退中で混乱しているサイエンティアの連中は、突然闇夜の中から襲いかかってきた敵に為す術もなく倒された。一応抵抗したようだがリンと言う新たな腕利きを加えたこちらの戦力に為す術もなく打ち倒され、ろくな反撃も出来ないまま捕らえられたそうだ。




「こっちの損害は?」


「怪我人が何人か出たみたいどけど死者は無いよ。完勝ってやつだね」




自分の作戦が予想通りにハマったのが嬉しいのかケニスはご満悦だ。俺としては寝てる間に全部終わった感じだから消化不良ではあるんだが、楽が出来て良かったと考えるべきだろう。とにかく、これで捕らえた敵は時間をかけて戦力に出来るはずだ。簡単な策にハマる間抜け共だが奴隷よりは使えるだろう。どんな奴らか早速顔を拝むとしようか。

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