第8話 集落会館

 里に降りると、あたり一面に緑の稲穂が広がっていましたが、夕暮れの残照があたった様は、まるで金色の波が広がる大海原のようでした。私はそんな美しい景色とは裏腹に暗い気持ちで田んぼの中の一本道をとぼとぼと歩いておりました。

 一時間ほども歩いてきて、ようやく先の方に平屋の建物が見えてきました。どうやら、あそこが区長さんに教えられた集落会館のようでした。


 建物に近づいてみますと、すでにたくさんの車が停まっていました。恐る恐るそっと近づいていくと、中からはガヤガヤと声が聞こえてきます。私はその声を聞いただけで逃げ出したくなりました。

 私は人付き合いが苦手でいままで友達といえるような人もできずに、本ばかり読んできたのです。田舎生活に憧れたのも、自分のような人間でもこんな田舎だったら人付き合いに煩わされず、楽しく生活できるかもしれないという気持ちが本当だったのです。そんなでしたので、玄関の前に立つには立ちましたが、いつまで経っても扉を開ける勇気が出てきません。


 とその時です。どこからか声が聞こえました。

「柄にもないことをするもんじゃない。お前みたいな人間はさっさと東京へ帰ってしまえと先日言っただろ。さあ、このまま尻尾をまいて逃げ出してしまえ」空を見上げるとあの鷹が舞いながら、私に向かって叫んでいるのでした。

私は急に悔しくなって、言い返しました。

「おい、そんなに馬鹿にするんじゃない。僕だって、少しくらいは勇気があるんだ」

「そんなに言うなら、さっさとその扉を開けてみればいいじゃないか。どうせお前にはできっこないだろうが」

「なにくそ、よく見てろ!」

そう言うと、私は思いっきり玄関をあけてしまったのでした。

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