第4話 自然の中で

 綺麗な花を見るとどんな匂いがするのだろうと鼻を近づけてみたり、鳥の鳴き声が聞こえると目をつぶってどんな鳥だろうと想像したり、ポカポカ陽気の日は野原にござをしいて昼寝をしたり、そんなことばかりしているのであっという間に日が暮れてしまいます。


 夜は夜で月や星空を見ながら自然の声に耳を傾けるのですが、しんとした静けさの中にも至る所で命が動き回っている気配がただよっていて、私は自分が鳥や虫たちの仲間になったような気がして、うっとりとしてしまいます。そんなとき、私は独り言のように山や森に向かって言うのでした。


「なんて、自然は美しいんだろう。こんなに美しい自然の中で過ごせるなんて、なんと幸せなんだろう。東京はたくさんお店があって大変便利だけれども、こんなにのんびりとはしていないんだ。僕は東京に住んでいたがちっとも楽しくなかった。だって、みんなが急ぎ足で歩くからいつも僕は脇の方に押しのけられるし、至る所でトンカントンカン工事をしていて、僕がのんびり過ごせる場所がどんどんなくなっていくんだよ。だけど、ここは昔から何も変わらない。僕はここでなら幸せに暮らせると思うんだ」

そうすると、どこからか声が聞こえてくるのでした。


——あんたはここが気に入ってくれたのかい――


私は、目をつぶりながら答えるのです。

「そりゃそうだよ、こんなに素敵なところは世界中どこに行ったってないさ」


——そいつはうれしいな――


そんな風に山や森が言っているように感じるのです。そうして、私はいつの間にか深い眠りにおちているのでした。

 そういうわけで、なにかと不便もあるのですが私は田舎での生活を大変に気に入っておりました。

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