第2話 物件探し

 佐藤さんはなんだか急にうれしくなったようで、さきほど後ろに片付けたばかりのパンフレットをいそいそと手に取ると、どれを最初に見せようかいろいろと悩んだあげく、結局諦めたようにぜんぶ机の上に並べました。


「いや、岩手というところは実に広くて、山もあるし、川もあるし、海もあって、自然が豊かで大変良いところです。もちろん、動物もたくさんいますよ。熊や鹿や狐や狸もだいぶおります。いやはや人間よりも多いかもしれません」と言うと、ハハハと笑いました。


 私は目の前に並べられたいろいろな市町村のパンフレットをじっくりと眺めながら、

「できれば山の奥の方がいいですね。木の実や山菜取りもできますし、なによりも動物たちがたくさんいるでしょうから」と伝えました。

「なるほどなるほど。あっ、では、このあたりはいかがでしょうか」

 佐藤さんは後ろから別なパンフレットを取り出しました。その表紙には、囲炉裏の傍に髭を生やした年配の男性が笑いながら座っている姿が写っていました。

私はその写真を見た途端、中身を開きもせずに、

「あっ、こんな家が良いです」とうれしくなって言いました。

 佐藤さんは少し眉をくもらせて、

「なるほどなるほど……ただですね、こういう物件はなかなか人気があってですね……」そう言いながら、机の脇に置いてあったパソコンをカチャカチャと操作し始めました。


 しばらくパソコンとにらめっこをしていた佐藤さんが、

「あっ、こちらなんかまさにぴったりですねえ」と声をあげました。画面には、昔は庄屋さんの住まいだったような、だいぶ大きな農家の写真が表示されていました。

「私は一人ですし、もっと小さいものはありませんか? できれば、山奥の一軒家で近くに小さな畑があって、小川なんかが流れていると最高なのですが……」私は渋い顔で訴えました。


「おっ、ありました! ……が、これはちょっと……」

 必死になってパソコンと格闘していた佐藤さんが、急に大きな声を出したかと思うと、途端に顔をしかめました。

「どれ、見せてください」

私は佐藤さんのパソコンを覗き込みました。画面には、なんというか、昔話にでも出てくるようなこじんまりとした古びた木造の小屋が写っていました。

「これは、住居というより作業小屋ですね。こんなものを登録しちゃダメなんだがな」佐藤さんは独り言のようにつぶやきました。


「ここに決めました」

私が満面の笑みでそう言うと、佐藤さんは相当長い間、口をポカンと開けて私を見ていました。

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