将来

 京は本日、アリス先生に進路相談に行っている。

 朝早く訪ねてきた時は驚いたが、彼女の苦悩を聞き、俺と翰川先生とで専門家への相談を勧めたのだ。

 良い結果になるといいなと思う。

「……僕のせいで長引かせてしまってすまないな」

「いいんですよ。ひーちゃん、可愛かったです」

「んにゅっ……」

 俺は改めて荷造りしている。と言っても、洗濯が回り終わった服をまとめるだけだ。

 なんでも、パフェさんの息子さんが『ひーちゃんとお父さんを喜ばせてくれたお礼に』と家具家電の搬入からガス電気までやってくれたのだそうで、あとは移動するだけである。

「うー……」

 少し拗ねた顔から、ひーちゃんの残り香を感じる。

「……さっきの、京の話で気になったのだが」

「なんでしょ?」

「二人が結婚したら、子どもは欲しいのか?」

「えっ……」

 あの時の京は張り詰めて追い詰められているようだったから、俺も宥めて安心してもらいたいと思って気になっていなかったのだが……

 翰川先生は完全記憶だ。一度引っかかった疑問は忘れない。

「け、結婚できたら、子どもは欲しいですけど……」

「……そうか」

 俺自身も、俺が原因で家庭崩壊したから、少しのトラウマもある。だが、励ましてくれたのは他ならぬ先生だ。

「翰川先生が言ってくれたじゃないですか。……幸せな家庭は自分で作ることもできるって」

「……確かに言ったが……」

「自分が好きな人との子どもなんて、そりゃあもう宝物みたいなもんでしょう。……やっ、まあ。俺にはいないから、偉そうに言って生意気なんですが!」

 まだ自分にも京にも責任を持てる立場じゃない。

「…………」

「……先生、なんかありました?」

「ミズリが子どもが欲しいと思っているのを感じる。……しかし、僕は義足だから……気後れしていた」

 ミズリさんは平然と振舞っているように見えたが、内実は先生への邪心にまみれた変態紳士。奥さんにも薄っすら伝わっているらしい。

「でも、ほんとは……僕もまた我が子が欲しい。周りの人にサポートをしてもらうことになるけれど、甘えていいのなら……」

「……人のこと助けてばっかりなんですから、たまには恩返しの機会をくださいよ」

「……光太は……僕に子どもができたら可愛がってくれる?」

「もちろん、紹介してもらえるなら可愛がりますよ。お世話になったお二人のお子さんですから」

「ん……」

 彼女はふわっと笑って、俺の手を握った。

「ありがとう。……ミズリと話してみるね」

「はい」



 先生に見送られて、翰川家を後にする。

「……」

 まだ大学に入っていない上、手に職なんて夢のまた夢な俺だが、将来の夢に、1つ追加された。

 もし、俺が自分のアーカイブを十全に使えるようになったら――翰川先生に足をあげたい。

「……」

 ぐっと手を握りしめる。

「頑張ろう」

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