第26話 お宝が燃え尽きる日


「……むっ、どうやら観念したようだな。よし、撃つな!」


 頭取を乗せた台車と共に地面に降り立った俺たちを見て、オットーが目を細めた。


「さすがにいくらか利口になったようだな、ゴルディ。百万クレジットの賞金首も、ついに年貢の納め時というわけだ」


 オットーは俺たちの挙動をうかがいながら、勝利宣言ともとれる言葉を口にした。


「おっかないお巡りさんたちに囲まれちまったんで、外の空気を吸いに出てきたのさ」


「ふん、無法者とはいえ、さすがに命は惜しいか。お宝はどこだ?あの幌馬車の中か?」


「いやあ、残念ながらあんまり暑いんで、金貨が残らず溶けて流れだしちまいました」


「下らん時間稼ぎはよすんだな。お前さんをお縄にした後、ゆっくり調べさせてもらうぞ。……ようし、二人とも、台車から手を離して二歩下がるんだ」


「いいんですか、旦那?俺は脚が長いから、向こうの岩まで行っちまいますよ」


「つべこべ言わず言われた通りにしろ。それともここで蜂の巣にされたいか?」


 俺はオットーの方を向いたまま、クレアに「いいか、いち、にの、さんだ」と囁いた。


「どうした、さっさと台車を離さんか」


「いーち、にーい」」


「何?」


「さんっ!」


 俺は思い切り台車を蹴とばすと、クレアと共に身を翻した。


「なっ……貴様っ」


 レンジャーたちが一斉に銃を向ける気配を背中に感じながら、俺たちは全速力でコンテナに駆け戻った。中に飛び込んだ俺たちは風のような速さで用意した防護服に着替えた。


「ねえゴルディ、この顔はどうかしら」


 クレアが新たにつけ換えた頭部は、凛々しいベリーショートだった。


「いいね、その服だと余計にセクシーだ」


 俺たちは床のハッチを開けて車体の下に潜りこむと、運転席の真下に這って移動した。


「無駄な抵抗はやめろ、ゴルディ。応答しなければ五秒後に突入する。いいな!」


 オットーの威嚇を車体の下で聞きながら、俺は小型の起爆装置を取り出した。


「四…三…二…一…時間切れだ、突入!」


 俺が起爆装置のスイッチを入れると、トラックが火柱と轟音を上げて爆発した。


「うわっ!……なんだっ、自爆しやがったっ」


 俺とクレアは防護マスクを被ったまま車体の下で息を潜め、外の気配をうかがった。


「くそっ、突入班は防護服に着替えてコンテナの中を探れ!まだ生きているかもしれん」


 俺たちがじっと動かず聞き耳を立てていると、やがてコンテナの方でどたどたと床を踏み鳴らす音が聞こえた。


「いっ、いませんっ!金貨もありません!」


「運転席のほうにもいませんっ」


 突入班の物と思われるやり取りが聞こえ、俺とクレアは慎重にコンテナの下に移動した。


「隊長、煙がひどいのでとりあえず車外に戻ります!」


 困惑したような隊員の声に続いて、床を踏み鳴らす複数の足音が頭上から降ってきた。


「よし、今だ。行くぞ!」


 俺とクレアは床の穴からコンテナ内に戻ると、あたかも煙に追われたかのような足取りで外に飛び出した。俺たちはコンテナの周囲にいる突入隊員たちに紛れ、咳き込むふりをしながら身体の煤を払った。


 俺は隊員たちの動きがいくぶん落ちついたのを見極めると、あらぬ方向を指さして「あっ、あっちの方にバイクで逃げる人影が見えます」と叫んだ。


「なんだって?……何も見えないぞ。おまえ、本当に見たのか?」


 俺のすぐ近くにいた隊員が、疑わし気な口調で俺に聞いた。


「そのように見えました。隊長に報告してきます。……おい、お前一緒に来いっ」


 俺はクレアに言い放つと、突入班の輪を抜けだした。俺たちはオットーのいる方向には向かわず、そのまま待機状態で置かれているバイクの方に向かった。


「むっ、なんだお前たち。隊長なら向こうだぞ」


 バイク隊のリーダーと思しき隊員が、俺たちを見て不審げなまなざしをよこした。


「隊長から、遠くに見える人影を追えとの指示がありましたので、直ちに向かいます」


 俺たちが防護服を脱ぎ棄てながら言うと、隊員は「待て、確かめてくる」と言った。


「よし、今のうちだ」


 俺とクレアはバイクに跨ると躊躇うことなくエンジンをかけ、荒野に飛びだした。同時に背後で「なにっ、俺がいつそんな指示を出した」というオットーの声が小さく聞こえた。


「あっはっは!」


 俺は防護マスクを脱ぎ棄てると、風を切って走り続けた。並走するクレアも同様にマスクを脱ぎ棄て「うふふ、ちょっと可哀想ね」と口の端を上げてみせた。


「いたいけな盗賊を大勢で虐めようとするから、こういう目に遭うのさ。あばよ、パパ」


 俺とクレアは再び道路上に戻ると、アジトに向かって『戦利品』のバイクを走らせた。


              〈第二十七回に続く〉

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