第1章 (2)

 彼女は制服を着ている。ぼくのクラスメイトとデザインは一緒。この学校の生徒だった。

 ネクタイの色だけが違っている。これも緑色。けれども彼女の瞳の色には遠く及ばない。時間の止まった色をしていた。

 ともかく、それでぼくは、彼女が三年生だと思った。

 先輩、ということになる。

 何を探していたか?

 すぐさま、あなたを、と閃いて、理性が働いた。初対面の女の子に対して、いきなりそんなセリフはないだろう。ぼくはそこまでナンパなやつでもなければ、運命を信じるタイプでもない。

 余計なことを口にして、引かれては困る。

 それに第一、彼女がぼくの魔法使いだと、まだ決まったわけでもないのだ。

 躊躇ちゅうちょするに足る理由があった。

 彼女は、大きな三角帽子も、魔女的なローブも身につけていなかった。箒もたずさえていない。

 それだけ見ると、普通の女の子のようだった。

 彼女はピザを食べている。片手に箱を持ち、片手にチーズの滴る1ピースを持ちながら。

 そこまで見ると、少し普通ではなかった。

 そもそも、そのチェーン店は、この近くにないはずだった。配達を頼めば高くなる。店舗で買えばかなり安くなるが、昼休みに買って帰ることのできる場所にはない。だから、ぼくたちは「昼休みにピザでも取るか」と冗談を言っても、結局は諦めていたのだ。ぼくらは温かいピザを食べたいのであって、昼休みの大半を費やして持ち帰ったそれが、冷めていたのでは悲しすぎる。

 それがぼくらの日常の限界だった。

 ところが、目の前に、それを叶えているひとがいる。

 どうやって?

 箒で飛んで。

 ここまでくると、とうとう普通じゃない。

 彼女は魔法使いだ。

 箒がなんだ、ローブがなんだ、三角帽子がなんだって言うんだ。

 地上に張り付いたぼくらの限界を悠々と超えて、温かなピザを食べる女の子がいる。

 革命を起こすなら、今だった。

 ぼくらの日常の限界を超えて、もっと自由なその先に飛び出すなら、今この瞬間をおいて他にはなかった。

 だからぼくは、普段なら絶対に言わないようなことを、口にする。


「あなたを探していました、魔法使いさん」

 

 ひざまずいたぼくは、けれども彼女の目を見たままだった。目瞬まばたきだって惜しかった。

 ピザを食べる手を止めて、彼女はぼくを観察するように見る。

 わざとらしく辺りを見回して、

「人違いでは」と言う。

 そんなことはありえなかった。

 その緑色をぼくが間違えるわけはない。先ほど見惚れた、世界で一番綺麗な色。それを間違えるほど、ぼくは瞳の色に無分別な人間ではないのだ。貯水槽の影の中にいても、一組の天体のように輝いている。

 ぼくには確信があった。それが間違っているなら、今まで過ごしてきた時間と、これからの人生全てが嘘になるほどに。

「ぼくをあなたの弟子にしてください」

 そう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます