第465話 かまカマ鎌釜kama……やっぱり違う

「口で言わなきゃ伝わらないかな? 私はさっきから待っているんだけどな。私は心のガードを解いている。きっと、神様なら思考を読み放題のはずだが?」

「ふん。頭の中を読み取ることは今できるのかもしれぬが、ギャンブルの反則やイカサマを告発するに当たって、それは意味がない。頭の中で疑いを持っただけでは、告発にはならんよ。そしてそのような言い逃れを許さぬ為にも、口頭で説明してもらおうじゃないか。言った言わないで争わぬことのないよう、録音もするかえ?」

 ふむ。一理あるな。思っていても声か文字のような言葉にしない限り、どんな酷い差別でも責めを負うには至らない、というのに似ている。

「分かった。だったら語って聞かせよう。まずは明言しておく。私、貴志道郎は対戦相手のハイネを反則を犯した疑いで告発する」

 さあ、これで引き返せなくなったぞ。緩めておいた心のガードを引き締め直す。

「ハイネさん、あんたは最初に姿を見せたとき、トレードマークの如く大鎌を掲げていたよな。あれ、どこへやった?」

「手頃な大きさに変換してて、懐に収めておるよ」

 さも、その左胸元に小さくした鎌があるのだという風に、ハイネは右手を胸にあてがった。私はしかし、頭を水平方向にゆっくり振って否定する。

「悪いが口で言うだけでは信じられないね。小さくできるってことは、どこにでも隠せるわけだしな」

「隠し場所を問題にしているのか? それがイカサマと関係あるとでも?」

「まあ、そう急かないで、もう少し聞いてもらおうじゃないか。なに、私は難しい要求をしているつもりはないんだぜ。あんたが潔白を証明する方法なら、簡単かつスピーディなやり方があるだろうと思ってるから。つまり――」

 私がその続きを言わない内から、ハイネは返事してきた。

「……鎌を大きくして、元のサイズに戻して見せれば早い、と言いたいのか」

「分かっているのなら、早くやってくれ。一つ、いや二つ言っておく。鎌の大きさを元通りにするに当たって、私に怪我を負わせるなどのことがないように頼むよ。もし、わずかでも傷を付けられたら、以降の勝負についても反則勝ちにしてもらおうかな。それと、ハイネさん、あなたはその胸元に鎌を仕舞っていると言ったのだから、そこからすぐに出してくれ。この二つ目の方は、即座に反則に問うのは難しいかな」

「……何を言っているんだい?」

 聞き返してくるハイネの語調が、つい先ほどまでと比べて固くなった気がする。ようやく焦りが表立ってきたか。失い掛けていた自信を多少取り戻せたぞ。

「言葉の通りさ。告発すると言ったのは、どういう意味なのか分かっているだろ。私は見破ったんだ、あんたのやり口を」

「……」

 とうとう沈黙したハイネ。手応えを感じて、一気に畳み掛ける。

「何がどうなっていて、今、ハイネさんが何を考えているか、当ててみようか。極々小さくした鎌は、私のこの右手親指の辺りに張り付かせているんじゃないか。爪の隙間なんか最適だろう。あんたはタイミングを計ってその鎌を遠隔で操り、指にちょっぴり刺激を与える。私がカードをしばしば落としたのはその結果だ。これまではカードを落とさせるだけだったが、その内、サイコロを振る瞬間にもちくりとやって、ミスを誘うつもりでいたんじゃないかなと思っている。まあ、それは実行されなかったみたいだから、問うまい。

 さて、そんな状況から、今し方私が要求した通り、つまりは鎌をその胸元から取り出してみせるには、いかなる方法があるか。たとえば、というよりも人間である私にはぱっと思い付くのはこれしかなかったんだが、鎌をさらに小さく、可能な限り極小サイズにした上で、私の親指からそっと“離陸”させる。そのまま静かに呼び戻し、胸元まで来させると、本来の大きさにしてその手で握ればいい。どうだい、ハイネさん?」

「そこまで分かっているのなら」

 この返答は、私の主張を認めたという解釈でいいのかな?

「おまえの言う手段を私が執った場合に備えて、何らかの対策を施しているんだろうねえ?」

 そこは私も悩みどころだった。目でとらえられないほど小さい鎌を、出したり引っ込めたりされたって、認識できるはずはない。だからここは、相手が神様であることを逆手にとって、ごねる。

「対策と呼べるようなご大層なものではないが、考えた。私の推測した通りであれば、あんたの鎌には血が付いている」

「それはそうだろう。私は死神。今日ここに至るまで、いったいいくつの魂を刈り取ってきたと思う?」

「あいにくと、人が食べた食パンの枚数を数えるほど暇じゃないんで、分からんね。そもそも、肉体ではなく魂を狩るときに血が出るんだ?」

「ふふん、そのときが来れば分かる」

 なかなか嫌な言い方をするもんだ。私はハイネのしゃれっ気をスルーし、主張を明確に打ち出した。

「何にせよ、私の血、もしくは皮膚の欠片や油脂が付着しているのはほぼ間違いない。鎌が大きくなったら、血の痕跡も大きくなるのか、それとも微量なままなのかは知らん。微量だとしても、検査すればすぐに分かる。そして私が言ったようなことがない限り、あんたの鎌に私の血や皮膚などが付着する機会はなかったはずだ」


 つづく

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