第451話 ナニカガ違ウ

 本文の前にお詫びとご注意を。近況ノートと重複しますがご了承ください。

 

 前回第450話にてハイネの手札を、


   スペードの10 ハートの10、4 ダイヤの10、2


 としていましたが、2021/8/20の午前3:30頃に


   スペードの9 ハートの9、4 ダイヤの9、3


 に、わけあって変更しました。

 

 変更前の第450話を読まれた方には、ご迷惑をお掛けします。申し訳ありませんでした。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



「いや。基本的には決めていたさ。だが、後番を取った特権として、もう少し時間をもらう。相手のカードの一部を見て、最終判断を下すのは当たり前じゃないか?」

「ふむ。弁が立つのはギャンブルも強い証、といったところかね」

 ハイネは腕組みをして待った。その時間はすぐに終わった。

「決めた。死神サンも早く見たいだろう?」

 言いながら、人間はカードに片手を置いた。そのまま、手前に引いてずらし始める。

「見せ方、真似させてもらうよ。死神と同じでは畏れ多いから、縦にずらすとしよう」

 オープンするカードを決めていたという言葉に嘘はなかったらしい。というのも、すべて裏向きに重ねてあるものと思われたトランプだが、ずらしていくと一枚、二枚と、表向きの柄が現れたのだ。

(つまり、前もってオープンする三枚を決めて、表向きの状態で重ねていたんだな)

 そう解釈したハイネは、三枚目が見えたところで軽くぎょっとした。

(ジョーカー?)

 見えたのはジョーカーの柄のごく一部と文字。

(ジョーカーが入っているのは別におかしくない。可能性はあるんだからね。だが、理解できないのは、何故今オープンする必要がある?)

 浮かんだ疑問が解けないまま、ハイネはさらに驚かされることになる。三枚見えたところで停まると思われた人間の手は、そのまま四枚目まで見えるようにした。思わず、指差しながら忠告する。

「おいおい、いいのかえ? 見せるのは三枚までで充分なんだが」

「これでいい。早速だが特例を使ってみることにした」

「特例だって? じゃあ、いきなり五枚全部を見せると言うのかね」

「くどい。ルールの範疇なんだし、そこまで驚くことじゃないだろう」

 そういう人間のこめかみには汗が浮いているようだ。慎重な手つきに努め、四枚目までを見せると、最後の裏向きだった五枚目を開いた状態にして、テーブルに置く。

(一体いかなる意図があってこんな人を食ったような、否、神を食ったような真似を)

 ハイネは五枚のカードのそれぞれに改めて注目した。

(ハートの5にハート7、ジョーカー、ダイヤの4とスペードの8か。これは、ちょいと並べ替えてやればストレートが完成しているな。しかし、こんな並べ方によるごまかしで、私をだませるとはまさか思っていまい)

「ハイネさん、考えるのも結構だけれども、先にこちらから言うことがある。よく聞いておいてくれよ」

「何だ?」

「全部めくって見せたんだから、私はハイネさん、あんたの交換枚数を好きに指定できるんだよな」

「ああ、そうなる」

 意外さに目を奪われ、特例ルールの特典について失念していた。その感情を押し隠し、「さっさと言え」と恫喝気味に命じる。

 だが、相手は殊更にスローペースで話を始めた。

「さて、どうしようかな。伏せてある二枚が気になるが、ノーペアの可能性もそこそこある。下手に五枚全部取っ替えて、ワンペアでもできてしまったらこっちがアシストしたことになり、格好悪い。しかし、交換枚数を三枚以下にするのもあり得ない。最低限、伏せ札の一枚は交換せざるを得ない形に持って行くのが理屈ってものだ。そのためには四枚。四枚チェンジを指定すれば、少なくとも伏せてある札の一枚は捨てなければならなくなる」

「よし、四枚だな」

 捨てるカードをどれにするかの算段を頭の中で始めたハイネ。

(9はどれか一枚を残しても、改めてペアができる可能性は極めて薄い。となれば、9は三枚とも捨てる。残るはダイヤの3とハートの4。この内、4は相手の手札に一枚あるから、ペアができる確率はやや落ちる。マークを揃えるフラッシュ系を計算に入れなければ、ダイヤの3を残すのが最も論理的)

 と、素早く思考をまとめるハイネに、予想外の声が掛かった。

「いや、ちょっと待った」

「何を待てと?」

「四枚にしていいのか、急に不安になった。ギャンブルの腕に自信満々な死神が、見え見えの行動を取るだろうか、とね」

「……」

 ハイネは一瞬絶句し、次に思った。

(こいつ、考えすぎているのかえ? 見え見えも何も、勝つための基本は論理的に振る舞うこと、これしかなかろうが。札を三枚オープンするに当たって、強そうに見せる意味はほとんどない。当然、伏せてある二枚が鍵になる。なのに、裏があると考えるのは……私が神内に勝ったと聞いて必要以上に警戒しているのか、あるいはこいつ自身、奇計を好むタイプなのか。恐らくは後者の理由だな。ジョーカー混じりとは言えストレートが完成しているというのに、全部オープンしたのも奇計のつもりなんだろう。確かに、私を驚かす効果はあった。だがそれだけさね)

「四枚でないのなら、何枚を指定するんだい?」

 ハイネはしかし、期待せずに聞いた。この人間のひねくれ具合からして、やっぱり四枚のままで、と言い出すことも充分にあり得る。

 返事は意外と早かった。

「決めきれないから、運命に従うとしよう。サイコロに決めてもらう」

「何だって?」

 本物のばかか、と言葉が喉から出掛かったが飲み込むハイネだった。


 つづく

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