第442話 それって麻雀でよくあるやつと違うの?
ボリュームを普段より大きめにして返事する。耳がおかしくなったのではないと確認すると共に、今すぐ
「もしかして、椅子に不満、いや不審を抱いておるのかえ?」
ハイネが空いている席を指差しながら聞いてきた。読まれた?
「当たったようだねえ」
愉快そうな、でもこっちに取っちゃあ耳障りな声が短い間、響き渡る。驚きがつい、表情に出てしまったようだ。ここは少しでもやり返しておかないと、際限なく追い詰められかねない。
「ハイネさん、その反応からすると、今のは超能力的な意味での心を読んだのではなく、推測で言い当てたってことになりそうだが?」
「うむ。真っ当なやり口でも、私は強いつもりだと言いたくてね。相手の心を読むことが、ギャンブルでは特に活きるのは断るまでもあるまい」
「ふうん? 天瀬に敗れたのはギャンブルではなかったからとでも」
挑発しすぎはよくないと思いつつ、探り探りというわけにも行かないので、ストレートな物言いになった。
「まさか、手加減したのを分かっていないのかね。早々に我らが勝ち星を上げて、人間側を追い詰めてしまったら、あとに控えしギャンブル勝負が意味を失い、行わずに終わるかもしれぬ。それじゃつまらん。うちの神内を破った人間の腕前を、是非とも堪能したいんだ」
手加減云々が本当の言葉なのかどうかは測れないが、ハイネがギャンブル好きで、かつ、自信を持っていることだけはようく伝わってきた。死神に見込まれるとは、縁起でもないね。逆に考えれば、ハイネに勝つことで私・貴志道郎が晴れて生還できる、そんな気がしてきた。無論、そんな約束はどこにもなく、あくまでも六谷のため、九文寺薫子のための闘いなのだが。
「無駄なおしゃべりが過ぎた。勝負の方法について説明を始めるから、ようく覚えておくように」
言うが早いか、ハイネは指を――長細い指をしているくせして――器用に鳴らした。何が起きるんだと周囲に視線を走らせつつ、身構えていると、二人の間にあるテーブルのほぼ中央に、長方形の額縁のような物がじわーっと浮かび上がってきた。程なくしてテーブルの上で完全に実体化。サイズは60×30センチぐらいだろうか。顔を近付けてよく見ると、黒い縁の中側には赤色の細かな文字の書かれた白い布が収まっているのが分かった。
「話すとどうしても長くなりがちだ。なので、書いておいた。聞きたいことがあればあとで受け付けるとしよう。制限時間は設けるがね。そうさな、質問の時間を含めて七分後には、否応なしに勝負開始と行こうじゃないか。いいね?」
「分かった。しばらく静かにしてもらおう」
私は布の文字を読むのに集中した。
* *
「ここに書いてあるのを読んでもらえば話が早いのだけれど、口頭で説明するわね」
広げた紙の
「読ませてくれないのはどうしてですか」
「それはもちろん、あなたとの会話を楽しみたいから」
「……」
絶対に嘘だ。じーっと見つめると、神内さんは真顔を崩して肩をすくめた。
「なんてことはなくって、対戦相手についてわずかでも知るためよ。読んで再確認したいと感じたのなら、あとで見せてもいいわ」
「……知るためって、それ、私に言っていいんでしょうか」
とぼけた返事が続き、困惑が積み重なっていく。もしかしたら、ううん、もしかしなくてももう駆け引きは始まっているのかも。ペースに填めるために口先三寸、じゃなかった、舌先三寸で翻弄してきている?
「多分、問題ないでしょ。これから勝負の方法やらルールやらを読み上げて、あなたがどこでどんな反応をするのかを観察する。こうして前置きしても、反応は出てしまうものじゃないかしら」
舌先三寸だけじゃなく、反応を見るというのはどうやら本当っぽい。
「じゃあ、私はがんばって無反応を装うか、嘘の反応をするように心掛けます」
実際にそんなお芝居をし通せるかどうかは、やってみなければ分からない。どちらかというと自信ないわ。けれどもこうして宣言しておくことで、私の素の反応を神内さんが深読みして逆に受け取ってくれる芽が出て来るはず。
「いいわよ。せいぜいがんばって。どんなに些細な反応でも、某かの判断材料になると踏んでいるからね~」
神内さんは余裕の笑みを見せながら、紙を持ち直した。表彰状でも読み上げそうな姿勢をしている。
「では、よく聞いて。大前提としてさっきから幾度か予告しているように、カルタを使います。具体的には百人一首、これをベースとした対決になるわ」
私はふんふんと頷いた。お芝居ではなく、ほぼ反射的に。
「百人一首と言うからには当然、場に並べられた札を取り合う形になるのだけれども、普通と違う点もある。最初に挙げておくべき重要な相違点は、そうね、相手に一枚札を取られるごとに、着ている服を一つ脱ぐ。これを最後まで繰り返すの」
「えええーっ?」
つづく
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