第323話 予想と違ってリードするも

 ハイネの方は例によって無表情。強いて言うなら退屈しているように見えなくもない。

 ベットは前の回で負けた側から行うことになった。ハイネはまた三十秒ほど考え、三枚と少額を張った。

 神内はさっき装った困り顔に併せて三枚で受けた。次にゼアトスによって、場のカードから三枚がめくられる。ダイヤの4、クラブのクイーン、ハートの7が現れる。

(まだノーペア。だけどダイヤのフラッシュに一歩近付いたとも言える)

 ハイネは一枚だけ賭けてきた。いやに刻むわねと感じながら神内も応じる。

 続いてめくられた共通カードはスペードの10。

(よし、10のワンペアができた。これで相手が弱い手のままなら、少しでもたくさん賭けさせて勝負するように持って行かなくちゃ)

 ハイネが出したのはまたも一枚。まだいい手はできていないようだ。

「一枚レイズするわ」

 神内はちょっと揺さぶりを掛けるつもりで、コイン二枚を出した。これにより再びハイネにベットの機会が回ってくる。同じように一枚上乗せするか、降りるか、あるいは神内を上回るコインを賭けるか。

「悩みどころですが……」

 抑揚のない口調故、悩んでいるようには聞こえない。今度も三十秒ほど時間を掛け、どうするかを決めたハイネ。

「すみません、お待たせしておいて申し訳ないですが降りるとしましょう」

「――あら」

 この程度で降りるとは少し当てが外れた心地だ。神内はちょっぴり挑発に出てみることにした(怖いけど)。

「あきらめがいいんですねえ。見た目は執念深そうにお見受けしましたけれども、案外あっさりとしていらっしゃる」

「しつこい自覚はありますが~。弱いときに無理をして勝ちに行ってもろくなことはありませんから~」

 ハイネはもちろんこの程度で怒りの感情を露わにするはずがなく淡々と、単調とすら言えそうな口ぶりで答えた。

 そしてハイネは己の言葉を実践し続けたのか、このあともなかなか勝負に出なかった。

 相手が降りる形で少額を勝ち続けた神内はゼアトスの定めた規則に従って、次戦のポーカーのタイプを指定していった。オマハポーカー、ファイブカードスタッド、セブンカードスタッド、セブンカードドローと毎回変えてみたけれども、ハイネの戦法に顕著な変かは見られなかった。基本降りてしまうので、得手不得手も判断のしようがない。

(うーん。本当に悪い手しかできていないんだとしても、そろそろ相手にも運が向いて、いい手が来る頃合いよね。その勢いを封じるためには……五枚で手作りをするポーカーばかりだったから、次はやや特殊なポーカーにしてみよう)

 そんな考えのもと、神内はゼアトスに七戦目のポーカーを指定した。

「次は決まった名称があるのかどうか分からないのですが、プレイヤーのどちらかがストップを掛けるまで、何度でもカード交換できるポーカーで行きたいと思います。他のルールは第一戦と同じで」

「ふうん。僕もゲームの名称は聞いたことないが、やった覚えはあるな。相手が弱いとみたらさっさとストップを掛けるのが面白い」

 ゼアトスはいい思い出でもあるのかやけにニヤニヤしつつ、カードを配った。

「どんどんチェンジしていって、僕が持っている残りのカードを使い切ってしまったらどうなるんだろう?」

「そんな事態にはなかなかならないと思いますが……もしなったら捨て札を集めてよくシャッフルして使うようにしましょう」

「ふむ。ハイネ君もそれでいいね」

「仰せのままに~」

 第七戦に突入してもハイネには幸運が回ってこないのか、いきなり五枚全部をチェンジした。

(よく分からない……複数回交換できる見込みなんだから、一枚ぐらいハイカードを残せばいいのに。ハイカードもなかったんだろうか)

 だとしたらさすが死神というべき運のなさだ。そんな冗談を思い浮かべる一方で、この第七戦からは新たに警戒すべき点があることも忘れてはいない。

(ゼアトス様は改めて言わなかったけれども、これ以降はイカサマ解禁。何かを仕掛けてくるかもしれない。私の方は何にも準備していないからこれと言ってできるイカサマはないけれども)

 サイコロ勝負で見せた同じ投げ方をすれば同じ目を出せる、なんてテクニックが使える状況でもなかった。

(今のところ、怪しいそぶりは見られないわね)

 神内が観察の眼を向ける前で、ハイネは二度目の交換でも五枚すべてをチェンジした。

(また……。何だかんだで今、六十枚ぐらい差を付けているけれど安心できない。ここまではハイネが降りないように、交換の度にコインを一枚ずつ賭けてきた。どうにかして相手から勝負に来させたいわ。となると相手にいい手が入ってストップを掛けるのを待つが確実だけれども、この調子じゃどうなることか)

 悩みながらさらにもう一度交換したところで、神内の手はストレートフラッシュができてしまった。スペードのクイーン、ジャック、10、9,8だ。

(どうしよう。ここから一枚でも換えると役を崩すことになる。スペードのキングやエースが入ってくるのを期待するのは無謀でしょうし。ハイネが勝負に来たときに私の手札が弱くては意味がない)


 つづく

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