第244話 想像とは違うギャンブル

  A.シューターの一投目の出目は何か

  B.シューターが失敗するのは何投目か

  C.シューターが失敗したときの出目は何か


「さっきの私の結果を当てはめると、Aは4、Bも4、Cは1になる」

「三つ全部を当てなければ勝ちにはならないわけか」

「違うわ。当てられるものではないので、当てた数をポイントとしてカウントしていき、互いに三戦なら三戦、シューターとチャレンジャーをそれぞれ務めて、ポイントの合計数が多い方が勝ち」

「ふむ。普通に驚いた。真っ当なギャンブルに聞こえる」

「当たり前でしょうが。実は必勝法があったり、イカサマの介入する余地が大きい勝負事は、ギャンブルの名に値しない」

「確かにそうだな」

 分かったような顔をしてうなずきながら、心中では困惑が否応なしに広がっていた。ルールは飲み込めたが、戦略なんてあるんだろうか。確率を計算しろってことなのか?

 大雑把に目安を付けるとしたら……Aの一投目は何かなんて六分の一に決まってる。Bは一投目は失敗する確率ゼロで、二投目は六分の一。次が三分の一。そのまた次が二分の一……って、こういう場合、サイコロを振る度にそのときの計算をするだけでいいんだっけ? 違う。三投目は二投目で成功している必要があるから、六分の五×三分の一で十八分の五か。四投目は六分の五×三分の二×二分の一でまたも十八分の五。五投目は……ああ、確率って高校までは得意だったんだが大学に入ってから苦手意識を植え付けられて、どうにも不安が拭えない。それにいちいちこうやって計算して、確率が高いところを予想すればいいだけだなんて、ギャンブルの戦略って感じじゃないような。双方が同じ戦略を採れば、まるで感情のない機械の対決だ。

「考えているところを悪いのだけれども、まだ途中なのよ、ルールの説明」

 言われるまでもない。これで途中じゃなかったら質問しまくる。

「さっき言った予想が的中するか否かとは別に、いくつかボーナスポイントを設ける。シューターがどれだけ連続して同じ目を出さずにいられたか、つまりは失敗するまでにかかった回数を評価するの。最初と二投目は無関係。三投目でも被りがなかったらプラス1ポイント。四投目ならプラス2、五投目なら3。そしてシューターが六回投げて、六度とも異なる目が出た場合、パーフェクトということで10ポイントがプラスされる」

「配分が偏ってないか」

「六連続はなかなか出るものじゃないから。それに全体を何戦するかである程度は調整できるでしょ」

「確かに。……そういえばBでシューターが失敗しなかった場合の扱いはどうなる? 七投目には絶対に失敗するわけだから、7と予想しておけばいいのか」

「その通りよ。しかも相手の六連続成功を見抜いたことに対してボーナスを10ポイントをもらえる。実質、相手のボーナスを帳消しにできる」

 面白いルールだけれども、それならBの予想を7で固定しておくのがいいんじゃないか。AとCは完全に運任せで、当てても1ポイントしか入らないのであれば、実質無視していい。Bについてもシューター側で得られる可能性のあるポイントは、1、2、3、10。1、2、3のケースでは防ぎようがないのだから、10ポイントをチャラにすることに狙いを絞った作戦を採る。これが一番合理的だと思える。

「そしてこのギャンブル最大のキーになるルール。シューター側が投げ終わったあと、チャレンジャー側は机に一秒だけ触れることができる。使えるのは手の指のいずれか一本のみで、回数はワンセットの中で一度きり」

「……何だって?」

 意味が分からなかった。これまでの流れにない“机”という単語を急に出されたせいに違いない。

「その机よ」

 私の目の前にある小学生用の机を差し示す神内。

「そこは何となく想像が付いたが、指一本で触れられることとギャンブルにどういう関係が」

 机に触れた瞬間、自ら台詞を途切れさせた。

 机は四本ある脚の先端に付いている滑り止めのゴムが摩耗しているのか、微妙に長さが異なっており、指で押す程度の力でも、かたんと音を立てて傾く。そして指を放すと、またかたんと音をさせながら戻った。

「相手がサイコロを振ったあと、このがたがたいう机に触れてかまわないっていうことは」

 私が思い浮かんだことを口にしようとすると、その前に神内はうなずいた。

「そうよ。このギャンブルでは、出目に対して一度だけ干渉し得る機会があるの。無論、思い通りにサイコロを転がすなんて芸当は無理でしょうけど、目を今出ている数と違うものにすることなら簡単、かもしれない」

「そういう駆け引きも含んでいるのか」

 もっと早い内に言ってくれよと思わないでもないが、ゲーム開始前なのだから文句は胸の奥に止めておこう。サイコロが机を飛び出たら振り直しという取り決めにも意味があると分かった。

 このルールがあることで、ゲームの様相は一変する。

「ちょっと試したいから、サイコロを置いてくれないか」

「だーめ」

 神内はサイコロを右手に握りしめたまま、いたずらげに笑った。


 つづく

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