第224話 予想と違わぬ結果だけど
これには心外だと不愉快に思った堂園。そんなやけのやんぱちみたいな気持ちで告白なんてしない。
「いやいや、違う違う。告白したときはそんなこと微塵も考えてなかったって。これは駄目かなーって思い始めたのは一週間か五日か、とにかくここ何日かのこと」
「その間に特別なことって、何かあったかしら」
「あった。天瀬さんが長谷井のいる場所で、僕ら他の男子に話し掛けることが増えた」
「……ばれてたんだ」
落ち合ってからずっと硬い表情だったのが、ここにきてふっと崩れた天瀬。
「私、そんなすぐ分かるほど不自然だったかな」
「さあ? ま、僕は僕で天瀬さんを注意して見てたから気付けたのかもしれないけれど。でもやってる意味はよく分からなかったな。委員長を嫉妬させたかったんじゃないみたいだし」
「……君のせいよ、堂園君」
「僕の。何で」
自分自身を指差し、聞き返す堂園。自分の行動が引き金になっていた可能性は考えないでもなかったが、詰め切れないでいた。答が聞けるのなら、喜んで静聴しよう。
「自分で言うのも恥ずかしいのだけれど……私は他の人を傷つけるのが凄く嫌なの。友達でもクラスメートでも単なる知り合いでも、仲の悪い子であっても、できることなら傷つけたくない」
「……」
ていうことはやっぱり僕はふられるんだと理解した堂園。思わず苦笑いが顔全体に浮かんだが、今は天瀬の話を聞くのが優先だ。
「堂園君はいい人で、男子の中では仲よしな方に入る友達だわ。そんな人を傷つけないように断るのってどうすればいいのか分からなくて。せめて私にはきちんと決まった相手がいます、だから無理ですって言えたらいいのかなと思ったの」
「あー、気遣ってくれて嬉しいけど、まだよく分かんないな」
「だから……他の男子と仲よくしているところを見せたら……長谷井君がその、正式に告白してくれるかなって……」
「あ、そうか! そういうね」
ようやく納得がいった。思わず膝を打ちたくなる。
「こんな断り方しかできなくてごめんね」
「いいよもう。すっきりした。こっちこそ謝るよ。小テストのある日に告白したり、色々悩ませたり、返事を聞く日に転校のこと持ち出したり。ごめん」
見方によっては自分て姑息だな~と、笑ってしまう。
「それで? 委員長からはまだ告白されてないんだ?」
「うん」
「長谷井がそんなに鈍いはずない。気が付いていて、でも言い出せないだけだと思うよ」
何でふられたばかりの身で相手の心配をしてるんだろう。我ながら疑問に感じながら、また笑い出しそうになる。
「いっそのこと、天瀬さんから言っちゃえば」
「そんな」
表情を見て、だろうねと、この線はあきらめた。気まずい時間が少し流れ、次に口を平たいのはやはり堂園からだった。
「終業式の日まで、長谷井の奴に意地悪するかもしれないけど、いい?」
「え? 意地悪って」
「うまく行ったらやっぱり癪だから」
「うまく行くって……」
「僕が長谷井の奴をせっついてやる。それとなくか直接かは約束できないけどさ」
そう言い切ると、止められない内にきびすを返し、公園を出て行こうとする。「あ」という天瀬の声が聞こえた。一度振り返り、
「言うまでもないけど、このことは秘密な!」
と補足すると、今度こそ気持ちを振り切って、公園から駆け出した。
* *
翌九日。テストが増えるこの時期、クラスの誰もがいつもに比べれば遊びよりも勉強に比重を置いている。教室の空気が違うので、肌で感じ取れるくらいだ。
実質的には高校生の六谷も大人しく勉強しているのは、以前彼自身が嘆いていたように、小学生の頃に習ったことを忘れて、ついつい中高生流のやり方で解いてしまう癖をなくすためだろう。
そんな中、比較的のんきなのは堂園だった。
「一学期までしかいないからって、さぼっていいわけではないんだぞ」
「分かってるって、先生。テストの点、悪かった?」
答案用紙を手提げに入れて職員室に向かう道すがら、何故か堂園が着いて来たのでそんな会話になった。
「昨日までに採点した分では特段悪い点じゃなかった。が、そういうことじゃなく、あんまり他の子の邪魔をしてやるなって意味だよ」
「邪魔って言うのは、委員長に対して?」
「分かってるのならなおさらだ」
今朝から見ていると、堂園がやけに長谷井に絡んで行くのが目に付いた。絡むといっても難癖を付けるという風な意味ではなく、あれやこれやと頻繁に話し掛けている。コンパス貸してとかノートを見せてくれとか、分からない問題があるから解き方を教えてくれといった普段でも起こりえることなんだが、とにかくその集中度合いが濃い。明らかにわざとやっているだろうと言える。
「実はさあ、昨日の結果を受け止めてこうなってるんだ」
「昨日の結果って、ほんとに返事を聞きに行ったのか」
思い出した。いや、もちろん覚えていたのだが、今朝の天瀬の様子を見るといつもと違いがないようだったから、何かの理由で先延ばしになったのかな、ぐらいに受け取っていた。
「もちろん。それで約束したし、岸先生にも結果報告をしておこうと思って、こうして着いて来てるんだけど」
「それならそうと早く言いなさい。どうする? どこか仕切られた部屋に入るか」
「いいよ、そんな大げさな。ふられました、はい」
「……そうか」
予想通りとはいえ、二ヶ月ほど見てきた子が失恋するのを目の当たりにすると、心にずんと来る。
つづく
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