第68話 夜間のデカはちょっと違う
「そういう話を待ってたんですよ。月曜の夜よりも前の段階では、正常だったかどうか、分かります?」
「えっと……」
言うまでもないことだが、先週の火曜よりも前の出来事は全く知らない。ここでいい加減な発言をしていいものか、迷う。月曜夜にやられたと見なすことに、蓋然性は充分にあるとは思えるんだが。
「火曜より前、最後に電話を掛けるか受けるかしたのがいつだったか、はっきりと覚えちゃいないので、断言はできません。明日、同僚や知り合いに聞いてみましょうか。電話をくれたかどうか」
「念のため、お願いしようかな」
刑事さんは意外と消極的な物言いをした。それに対する私の怪訝な気持ちが目付きや態度に出たのだろう、刑事さんはふと気付いたみたいに言葉を足した。
「どうしても必要となったら、通話記録を照会するという手がありますので、詳しく分からなくても大丈夫なんですよ」
「ああ、なるほど」
「どちらかといえば、その破損したコードの現物が欲しいのですがね。お話を聞く限り、もう処分してしまったようで」
「ですよね」
自分の思慮の浅さに情けなくなる。が、はたと思い出した。
この時代に来てから、ゴミ出しをまだしてないぞと。
本当なら昨日、月曜の朝に可燃ゴミを出すつもりで準備もしていたのだが、早朝に掛かってきた季子さんからの電話で、何もかも予定が変わってしまったんだった。当然、ゴミも出さないまま、天瀬宅に行き、学校へ向かった。今の今まで失念していたのだから、我がことながら呆れたもんだ。
「昨日、ゴミ収集日だったんですが、忘れてました。あの中にあるはずだから、取ってきます」
台所の隅に置いていた袋ごと持ってきた。
「どうも。これも怪我の功名と言うんですかな。あ、触らないで」
指定ゴミ袋の縛ってある口をほどこうとしたら、止められた。刑事さんは白手袋を素早く、しかししっかりと装着し、ゴミ袋を受け取った。そして何事か考え込む顔付きになった。
「――岸さん、この中身は前の火曜日から日曜までのゴミが入ってることになる?」
「そうなります。厳密には、月曜の夜ぐらいから」
私がこの十五年前の世界に来た時点では、部屋にゴミの詰まった袋はなかった。きっと岸先生が月曜の朝に出したのだろう。だから今ここにあるゴミ袋の中身は、私が自分の手で集めた、月曜夜からのゴミということになる。
「なるほど。ということは、この部屋に入った人物の何らかの痕跡が、この中にあるかもしれない」
「ええ、そうですね」
刑事さんの言わんとすることが分かってきた。
「前の週の月曜夜にあなたが襲われたとして、その犯人が誰かを示す証拠が入っている可能性がある。渡辺の言ってることが事実かどうかも含めて、確認したい。もちろん、コードも調べる。
ぶっちゃけると、渡辺の話が事実なら別件の捜査本部を起ち上げなくちゃいけないんですよ。自分は、その必要がないことを確かめにここに来たようなもので、あなたの証言にしても、酔っ払っていてよく覚えていない、曖昧な記憶に過ぎないとして片付けることができたんだけれども……聞いている内に気が変わった。このゴミ袋を提出してもらって、別の犯罪が起きた証拠があるかないか、きちんと調べないと寝覚めが悪くなる」
刑事さんは顎をさすりつつ、決意を固めるかのごとく、強く言い切った。
つづく
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