第162話 生きている
「よくぞ、我が国悲願であるタロス討伐を成してくれた。礼を言うぞ正太殿、それに勇者達よ」
タロス討伐を終えた俺達は現在タイカ国首都に戻り、国王に討伐報告を終えたところだ。
目の前には高御座の上に胡坐でこちらを見下ろすタイカ国の王が、満面の笑顔を浮かべながら俺たちに労いの言葉を掛けてくる。
なんか俺が筆頭になっちまっているが、こんな筈じゃなかったんだがなぁ?
最初はアメリア王国の謁見の時と同様に、ただの従者的ポジションで勇者であるコウメの後ろに控えようとしたんだが、『主役殿が後ろに居るとは、なんと恥ずかしがり屋であるな』とか言われちまった。
まぁ俺の事をこの世界の異物だと知っているイヨの
そう、名前の響き通りと言うか元ネタ通り、タイカ国は女系国家であり、目の前で俺を見下ろしている王は女性って訳だ。
その女王様は邪馬台国のイメージ的に貫頭衣な弥生時代ルックかと思いきや、額には太陽をモチーフにした額当て、白い千早を羽織りその下には白衣に緋袴と言う、所謂巫女さん衣装に身を包んでいる。
多分漫画とかゲームとかに出てくる卑弥呼がそんな恰好をしてる事が多いんで神達はタイカ国の礼服をこう設定したんだろうな。
周囲のお偉いさん達も、なんか烏帽子を被って神主やら平安貴族っぽい格好をしてるし、王城も城と言うより寝殿造りの神社か寺って感じ。
そんなチグハグではあるが、前世で時代劇や京都に修学旅行に行った際に見た景色に近いんで何となく安心する。
「さて、主役殿。褒美の話だが何が良いかの? 何でもよいぞ。なんなら未亡人である儂でも……」
「ちょーーとストップ! 女王陛下!」
なんかとんでもない事を皆の前で言おうとしやがったぞこの女王。
最後まで言わせるかよ!
流石は
だが、まぁ俺をからかっているんだろう。
急いで止めた俺をニヤニヤとした顔で見てやがるしな。
それより褒美に関しては最初から何を望むかは決めていた。
本当はイヨに聞こうと思っていたんだが、それどころじゃなくなったんだよな。
イヨがラグナロクの預言について詳しく喋ろうとした途端、庭園内に急使のラッパが響き渡った。
何事なのかと事情を聞くと、突然タイカ国の魔族が目覚めたって知らせだったんだ。
幸いな事にアメリア国と違ってタイカ国は首都から遥か彼方の距離にある場所に封印されていたんだと。
首都を目指すにゃ砂漠を通らなきゃいけねぇんだが、鉄巨人であるタロスは足を取られて移動が遅く時間的に余裕があったんで、俺とコウメはまずはタイカ国の首都であるこのヤマトの都に来たんだ。
そこで二人の勇者コマチとコバトと出会い、力を合わせてタロスを討伐したって訳だ。
まぁ二人は出会った頃のコウメと同じく俺見るなりいきなり喧嘩売ってきたけどな。
もしかして勇者って全員俺に喧嘩売るように仕組まれてるのかね?
「俺の欲しい褒美はもう決まっています。それは……」
「あ~分かっておる。お前が望む褒美とやらは情報のことじゃな? どうら今すぐ視てやろうではないか」
俺の望みを言う前に、遮るように女王はその答えを言い当てやがった。
ドンピシャすぎる言葉に一瞬ビビったが、さすが預言の権能を持つタイカの王族って訳か。
そもそもいきなり俺の正体に気付いてたしな。
先祖返りのイヨ程じゃねぇって話だが、やはり神の権能ってのは大したもんだぜ。
しばらく瞑想していた女王はやがて目を開けると俺に預言を告げる。
「お主の探し人は
その言葉に何も言わず押し黙った。
生きている……か。
はぁ、この情報は喜んでいいもんかね。
死んでてくれた方がまだよかったぜ。
実は出発前にレイチェルが教えてくれたんだ。
まぁレイチェル自身は既に過去の事だと割り切っていたから、今まで調べようとしなかったらしいがな。
けど、俺と再会したことで探そうと思ったんだと。
あぁ、そうさ。
それはあいつらの……かつての仲間だったハリーとドナテロの行方だ。
ただ、教会の伝手を使っても先輩からの情報同様に現在の消息は不明だった。
しかしよ、消息を絶つ前の詳細な状況は判明した……聞きたくなかった事実だがな。
「ふむ……なるほどの。厄介なことじゃ。
俺はその言葉に溜息を吐く。
……どうやら足を洗っていないようだな。
レイチェルが調べたハリー達の残した
そのまままっとうに生きていてくれりゃよかったんだが、ある日……偶々か計画かは知らねぇがその村を経由する商隊の護衛任務を請け負ったんだと。
そして野宿の際に二人で見張りを買って出たとの事だが、その深夜に商隊の奴らの寝込みを襲って次から次へと皆殺しにしたあと荷物を奪ってそのまま姿を消したらしい。
皆殺しならこんな話が出るわけ無いんだが、ハリー達は相当焦っていたんだろうな。
殺したのは全員ではなく実はトイレに起きた人間が居たことに気付かなかったようだ。
その幸運な生存者の目撃情報によって事件が明るみとなったんだとさ。
まぁ物の陰に隠れていた生存者は去っていったハリー達の行き先までは分からない。
王国も捜査はしたが運の悪いことにバカ王子によるイヨ誘拐事件に起因する王国動乱が始まっちまって、上も下もてんやわんやの大混乱。
そんな状況の中、小悪党共の捜査なんてしている場合じゃなく忘れさられてたんだとさ。
まぁ俺の捜査が打ち切られたのと同じ理由だな。
ハリー達の事を嫌っていたレイチェルも、さすがにこの事実はショックだったようだ。
俺に話す際に顔を真っ青にして震えていた。
聞いた俺の方も言葉が出なかった。
心の中では『お前らが悪党になってどうすんだよ!!』って怒号がぐるぐる回っていたがよ。
そしてレイチェルは俺に託したんだ。
「死んでるのならいい。でも、もし二人が今も生きているのなら貴方の手で終わらせてあげて」ってな。
今思うとレイチェルは今のハリー達の事を知っててそう言ったのかもしれねぇ。
「救うんじゃねぇのか?」って聞いたら、「本当にあんたってお人好しね」と言われちまった。
いやいや、お人好しって訳じゃねぇさ。
俺なんて村人達を殺した罪を償いもせず先輩に匿われるまでの10年近くの間ずっと逃亡生活を続けていた大悪党なんだからよ。
人様の罪をとやかく言える立場じゃねぇのさ。
だから……せめて、ハリー達が罪を償って今は堅気の生活を送ってるってんなら、昔の恨みは忘れて見逃してやろうと思ったわけよ。
だが、いまだに悪党続けてるってんなら話は別だ。
昔の仲間だったよしみとして、レイチェルの言う通り俺の手で終わらせるべきだろう。
「女王様、二人の居場所を教えてください……」
神のおもちゃのラグナロク 〜おっさんになった転生者は、のんびり暮らす夢を見る。~ やすピこ @AtBug
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