第74話 二人のケンオウ


「今度隣の大陸に行かなくちゃならねぇし、それにメイガスにも会いに行かねぇといけねぇ。機会が有りゃ、彼奴等の足取りも調べてみるぜ」


 元々、落ち着いたらメイガスに会いに行こうと思っていたんだから、いいタイミングだ。

 なんせ次の魔族攻略の為に、タイカの王族への手引きをして貰う必要が有るしな。

 それに、俺の故郷に帰って確かめなけりゃならねぇ事が出来たしよ。

 あの映像はどこまでが本当で、どこからが嘘だったのかって事をな。


 次の魔族の情報は間違いなく本当の筈だ。

 なんせ、そんな嘘の情報を教えたって神達は何の得も無ぇと思うしな。

 『冒険しましたけど何も有りませんでした』なんて物語、誰が好き好んで読むかよ。

 まっ、俺の冒険譚の題名が『へっぽこ転生者の失敗人生』ってコメディなら知らねぇけどよ。


「ん? 『行かなくちゃならない』ってのは、一体どう言う事だ? メイガスの事に関しても急がなくても手紙でも良いだろうに」


「あぁ、次の魔族復活の地は、現在アメリア王国を治めているタイカ国の様だからな」

 

「「なんだって!」」


 うおっ! びっくりした。

 先輩とダイスが声を揃えて驚きやがった。

 この二人の大声に、周辺を調べていたジョンや他の案内人もビビッてこっち見てる。


「あぁ、そう言えば、まだ言ってなかったな。天啓って奴だ。次の魔族へ飛んでいく光の玉の映像を見せられたんだよ」


「早く言えよ、そんな重要な事!」


「いや、すまん。まさか先輩がこの調査にやって来るなんて思わなかったからよ。街に戻ってから関係者集めて報告しょうと思っていたんだ。移動手段に関してとか相談したかったしな。行き先がタイカ国って事はコウメやブレナン爺さんにも言ってねぇ。俺の居ない所で勝手に動かれても困るからよ」


 俺の与り知らぬ所で、俺の行動をお膳立てされるなんてのは大嫌いだ。

 ただでさえ神に嫌と言う程、俺の運命の行く末を強要されてるって言うのに、これ以上は勘弁だぜ。


「むぅ、それなら仕方無いか。まぁ、次の場所が分かったのは朗報だ。しかし、移動手段に関してか……。普通に移動しようとしたら数か月は掛かるな。う~む、あのおとぎ話が本当だったら良いんだが……」


「何だよそれ? おとぎ話? その話の中になんか移動手段が出て来るのか?」


 もしかして気球とか飛行船とか出て来るのか?

 それならば、馬車や船よりも早く行けそうな気もするが、この世界にも偏西風が存在するんだよな。

 西に行くのは難しいんじゃねぇの?

 それに食料や水とかも管理が大変そうだ。


「ん? 知らないのか? あぁ、あっちの大陸には広まってなかったのか。いや、子供の読み聞かせ定番の絵本でな。こっちの大陸じゃ『旅する猫』って有名なおとぎ話が有るんだよ」


 『旅する猫』? なんだそれ。

 母さんからも聞いた事ねぇし、幼馴染との話題の中でもそんな題名の話が挙がった事は無ぇな。

 元の世界にもそんな話は無かったと思う。

 いや、『長靴を履いた猫』って話が有ったか、なんか80日と言う期限内に世界を旅するって……、いやそれと『80日間世界一周』は別の作品なんだっけ?

 なんか一緒の話ってイメージが有るけど何故なんだ?


「う~ん? 少なくとも俺の村にゃそんな話は聞いた事がねぇな。猫が放浪するって話なのか?」


「あれ? 先生は知らないでんすか? 俺大好きなんですよ、その話。そうですね~、が本当に有ったら良かったのに」


 ダイスの奴は知っているのか。

 王族にだけ伝わっている上流階級向けの絵本とかなのか?


「悪かったな庶民の田舎者でよ」


「いやいや、そう言うつもりじゃないですって! それにこの絵本は階級なんて関係無いんです。俺の国では身分関係無く市場で安く手に入りますし、旅芸人の定番の題目ですよ」


 ダイスが必死に弁明している。

 いや、少し皮肉で言ったつもりだが、ここまで恐縮されると逆に困るな。

 とは言え、その話がこの大陸では誰でも知っているって事は分かる。

 俺の知らないこの世界だけの当たり前の文化ってのを知れて、なんか少し嬉しくなったぜ。

 それはこの世界の住人が、ただ単に神に作られた人形じゃないって事の証明だしな。


「そうか、あの大陸出身のお前が知らないんなら伝わってないんだな。簡単に言うと、猫が世界各地を旅してその行く先々で巻き起こる騒動を解決していくってお話だ」


 ほうほう、なんか基本は『長靴を履いた猫』みたいな良く有る擬人化の物語の様だな。

 どこと無く旅した先で問題解決なんて『水戸黄門』ぽい感じがしないでもないが。


「で、移動手段ってのはどんななんだ? 空でも飛んでいくのか?」


「空? いや違うぞ。その移動手段ってのが『世界の穴』って言う代物なんだ」


「『世界の穴』~? なんだそれ?」


「あぁ、その穴に入るとあら不思議、別の国へひとっ飛び、そして次のお話へ続くって引きで終わるんだ。いや、絵本なのは分かっているけどよ。こんな事態だから、有ったら良かったのにと思っちまった」


 ……前言撤回だ。


 『世界の穴』だっけ? それ絶対に存在するわ。

 まさにこの為だけに作られた設定って奴だよな。

 小さな独自の文化って、ちょっと感動してしまった自分が情けねぇ……。


「ま、まぁ、おとぎ話と言えども何かしらの根拠って物が存在するかもしれねぇじゃねぇか。王子に相談して調べて貰おうぜ。多分すぐに情報が見つかると思うぜ」


「すぐに? 何か心当たりでもあるのか?」


「ないない。全く知らねぇよ。ただな、そう言う目線で調べたら案外見つかったりするもんなんだよ」


 まぁ、確実に神の思し召しって奴だがな。

 『ぽよドーン』と違って存在すると思うからすぐにその情報が見付かるはずだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「そう言えば、お前の村って確か『大陸渡り』に滅ぼされた『ケンオウ』達が住むと言われていた村だったな。俺も『ケンオウ』に会いたくて昔何度か行こうとしたんだが道に迷って行けなかったんだ。会いたかったが残念だったぜ。いや、二人なら生き残っていてもおかしくねぇが、捜索では見付かっていないんだよな」


 あの後、休憩所周辺の状況を調査し、噴火の兆候や火山性ガスが周囲に充満していない事等を調査した結果、問題無い事が分かったので、取りあえずここで一泊し明日朝から調査すると言う話になり、皆焚火の周りに腰を下ろして休んでいる。

 さすがに今回は俺もその言葉に素直に従った。

 前回と同じく、俺が勝手に動くとまた火山が噴火したりとか有りそうだしな。


 そんな中、先程俺の故郷の話が挙がった事に付いて、先輩が思い出したかのようにそんな事を言って来た。 

 ふ~ん、先輩も俺の村に来ようとしたことが有るのか。

 しかし、麓の町まで一本道だったと思うが、何を迷う事が有るんだ?

 別に獣道って訳でも無く、普通に人が通れる様にはしてあった筈……。

 あっ、もしかして実際には俺の記憶の中に出て来た道なんてのは無ぇのか?

 神が作った概念だけの存在だから……。


 いやいやいやいや、今先輩がなんか変な事言わなかったか?


「何だそれ? 場所間違ってねぇか? 俺の村に『ケンオウ』なんて呼ばれている奴は住んでいなかったぞ?」


「なに?『大陸渡り』に滅ぼされた村出身って言ってただろ?」


「あぁ、そうだぜ。麓の町はなんて言ったっけか? 確かフェ……フェル? いつも麓の町って呼んでたから町の名前が思い出せねぇや」


「フェルモントって町だろ?」


「あぁ、そうそうそれだ。じゃあ、同じところか。おかしいな? 村までの道にしても一本道だったと思うんだが」


 町の名前は作られた記憶との差異は無さそうだな。

 だが、村の住人の事やそこに至る道の有無とか、少し認識の違いが有るみてぇだな。

 神も詰めが甘いぜ。

 となると、当時ベラベラと故郷の村の事を喋らなくて良かったぜ。

 危うくボロが出る所だった。


「う~む、『ケンオウ』に関しては、やはり噂は噂でしかなかったって事か? いや、道は今思えばありゃ結界だな。恐らく外敵を排除する迷いの結界かもしれん。そんな結界を張れる奴となるとやはり『ケンオウ』しか居ないと思うが……?」


「ぶっ! 先輩敵扱いされてたって事か? 笑えるな。けど、行商人とか普通に来ていたぞ?」


「笑うな! まぁ敵扱いされてもおかしくないか。なんせ腕試しが目的だったしよ。しかし、本当に知らないのか? 二人の『ケンオウ』の事」


「二人も居るのか? と言うか、そもそも『ケンオウ』ってなんだよ。王様の事なのか? 俺の村は、のどかで小さな村なんだぜ? 王様なんて居ねぇよ」


 いや、わざわざ記憶の中の故郷の事で、ここまで問い詰めなくてもいいんだが、やはり神に見せられた映像の所為か、村の事が気になってしまうな。

 それに二十四年経っている今じゃ、それ位の認識の違いなんて大した問題にならねぇだろ。


「あぁ、『大陸渡り』に滅ぼされる二十年近く前だから、今からだと四十四、五年くらい前か。突如ある冒険者二人組の名前がその大いなる活躍と共に大陸中を席巻したらしいんだ」


「へぇ~。俺の生まれるよりだいぶ前の話だな」


「まぁ、丁度俺が生まれた年ぐらいか。で、その冒険者は凄腕の剣士と魔法使いの二人組パーティーで、彼らに解決出来ない事等無いと言われた程らしいぜ。あまりの活躍振りに当時の勇者が何人も腕試しに挑んだらしいが、片方一人にパーティーで挑んでも誰一人勝てなかったらしい。それでついた通り名が『剣王』と『賢王』って訳だ。それが突如冒険者を引退したかと思うと、フェルモント近くの山奥の村に隠遁したって噂だ」


 凄腕の剣士に魔法使い? どっかで聞いた組み合わせだな。

 しかし、勇者率いるパーティーが挑んで勝てなかったって凄ぇな。

 しかも、一人にだぜ? まるで俺みたいな奴だな。


「その席巻した冒険者ってのはどんな名前なんだ? 村の奴の名前は全員覚えているぜ」


「おぉ、そうか。彼等の名前はカイルスとテレスって言う男女なんだが、二人の結婚を機に引退したって話だ。心当たり無いか?」


 ん~、カイルスとテレスね~。

 村に居たっけ、そんな名前の強そうな奴……。

 裏の雷爺さんはユピテルとか言うキャラに合わないかわいい名前だったし、村の外れに住んでいる狩人の名前はネイトさんだったよな?

 夫婦と言う事だったが、友達のベールとムリス兄妹の両親はアンシャルとキシャルとか言う二人似たような名前だったから違うな。

 う~ん、他には……、え?

 ちょっと待て、カイルスとテレスって、それ……。


「なぁぁぁ! それマジか!」


「なに? 知っているのかショウタ!?」


 そのセリフはどこかで聞いた事が有るが、そんな事はどうでもいい。

 その名前に心当たりが無いとかそんなレベルじゃねぇ。

 あまりに近い存在だったから候補にも入ってなかったぜ。


「それ、俺の両親の名前だわ」


「「「「「「なんだってーーーー!!」」」」」」


 星が綺麗な夜空の下、俺を除く六人の驚く声が星に負けないくらい綺麗にハモった。


 神の奴め、何俺の両親に中二病チックな逸話をぶっ込んでやがるんだ?

 剣王に賢王?

 ハァ……、マジで頭が痛いぜ。

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