第53話 友
「先生? 先程から話しに出てきます『嬢ちゃん』と言う方と、一体どんな関係なのですか?」
ビクッ!
先輩からの衝撃な事実の告白と如何ともし難い運命の強制力、それに絵画に描かれていた瓜二つだったとされる姿から変わり果てた
俺はその言葉に死を意識して、慌てて振り返る。
そこには何故か鋭い目付きで、俺の事を値踏み上げる様に見て腕を組んでいる姫さんが立っていた。
「ひ、姫さんどうしたんだ?」
周りから、『あぁ、姫が元に戻った』と言う声が聞こえて来る。
「質問に答えて下さい」
怖ぇ~。何をこんなに怒っているんだ?
「じ、嬢ちゃんってのは、先輩の娘なんだよ」
ん? そう言えば姫さんと従妹になるのか? いや、口にしちゃマズいんだったな。
「それは、先程の話から分かっています。私との関係では無く先生との関係です!」
「え? 俺との関係? う~ん、ギルドの構成員と受付嬢……かな?」
「そうでは無く! もっとこう感情的にどのように思っているかって事です」
「感情的にどう思っているか? う~ん、嬢ちゃんは小さい頃からちょくちょく会っていたし、その成長を見て来たから、姪? って言うより、どっちかと言うと娘に近いイメージだな」
初めて会ったのは五歳か六歳だかの頃か? たまたま馬車がゴブリンの集団に襲われているのを、気紛れで助けたんだ。
まさか、その馬車に先輩が乗り合わせているとは思わなかった。
終わった後、嬢ちゃんは怖くて泣きじゃくっていたっけか。
ただ、あまりの恐怖からか、その時の事はあまり覚えていねぇようで、あの時助けたのが俺と言う事に気付いていねぇみたいだけどな。
お陰で俺が弱いと思い込んでくれてるみたいで、変な仕事を振られなくて助かっているんだが。
俺の力の事を知っていたら、絶対無理難題をねじ込んでくると思うし。
「おい! 俺の娘だぞ!」
「わぁーってるよ! そんな感じってだけだ」
ったく、本当に娘の事になると先輩も王子も人が変わるよな。
十四歳で成人の筈なのにいつまで子離れしない気だ?
嬢ちゃんもメアリもその内、結婚して離れて行くって言うのによ。
「先程ご先祖様の肖像画とそっくりで綺麗とか言ってませんでしたか?」
「へ? え? ……いやいや、逆だ。綺麗な肖像画に嬢ちゃんの面影が有ったって言ったんだ。言われたら似てるって位で髪型や普段の格好からはイメージ湧かねぇよ」
「ほぉ~。うちの娘が綺麗ではないと?」
「ちょっと待て! 違うって! 先輩が出てくるとややこしいから黙っててくれ!!」
ったく、なんで国王の前でこんな茶番劇を始めないといけないんだよ。
ほら見ろ。
国王が俺と姫さんの事を不思議そうに見ているじゃねぇか。
「と言う事は、先生はその『嬢ちゃん』と言う方の事は、娘の様に思っているだけで、特別な事は何も無いと? そう……仰るのですね?」
最後の言葉の圧力すげぇ! まだ女媧の群れに飛び込む方がマシだと思えるぜ。
「あ、あぁ。……って言うか何も無いってなんだよ。こんなおっさんと何か有る訳無いだろ」
「そうでしたか。安心しましたわ。けど、おっさんだなんて自分を卑下しなくても。それに、フフフ。王侯貴族では歳の差婚なんて当たり前ですのよ?」
? 安心したってどう言う意味だ?
まぁ、それは置いておいて、やっぱり一般人と特権階級の奴等とは感覚が違うんだな。
歳の差って言っても、十四歳相手は無いわ~。
「ほっほっほっ。そうかそうか。 なるほどのぉ~」
突然、国王が何かに納得した様な声を上げた。
慌ててそちらの方を見ると姫さんの方を見て嬉しそうに頷いていた。
「マリアンヌよ。取りあえずはそこまでにしておくのだ。あまり怖がらせると逃げられるぞ? ほっほっほっ」
「う、うぐぐ」
さすが国王分かってる。
俺への褒美の話はさっきので終わったし、姫さんに絡まれるのはそろそろ勘弁して欲しいと思っていたんだ。
『あまり怖がらせると』どころか、既にマジで怖いし。
さっきから何処と無く、チコリーの母親と同じ匂いがしなくも無いが、さすがに姫さんが俺に惚れるなんて事は無いだろう。
もし今、俺に好意を抱いているとしたら、それは気の迷いだ。
強制矯正ダンスレッスンによってトラウマが解消された所為で、ヒヨコのすり込み的に俺に好意を抱いた……、と言うのは、まぁ、有るだろう。
しかし、ダンスが踊れる様になったんだから、これから社交界で素敵な出会いも出来るだろうさ。
何より、そうであって欲しい。
姫さんに付き纏われるなんて、絶対トラブルしか起こりえないし、静かに暮らすなんて不可能だ。
と言っても、今ここで明確には否定する言葉は言わない。
だって、
「そろそろ本題に入らさせて貰おうか。すまぬが皆の者、これより語るは王家の秘密故、部屋から退出してくれぬか」
国王は、片手を上げて周りの者にそう指示をした。
既に打ち合わせはされていたのだろう、周りの近衛騎士達が部屋から退出しだした。
さて、俺も出て行こうか。
女神は『友に』と言っていたし、俺はカウントされてねぇからな。
「先生! 1Fのカフェで昼食をご一緒致しませんか? とても美味しいのですのよ」
姫さんがこそっと退出しようとしていた俺を見付けて誘って来た。
どうやら、この王家は成人男子への口伝と言う事で、姫さんもカウントされていないようだ。
う~ん、このまましれっと姿を消してオサラバしようと思っていたんだが……。
まぁ飯食うだけなら良いか。
恐らく奢りだろうし、こんな高級ホテルの飯なんて、そうそう食べる機会なんて無いしな。
先輩達を待つついでの時間つぶしにはいいだろう。
しかし、一昨日から贅沢な物を沢山食べてるんで舌が肥えてしまわないか心配だぜ。
「あぁ、良いぜ。丁度お腹空いて来たしな」
「待たれよ、ショウタ殿。おぬしはここに残られよ」
高級ホテルの料理に想いを馳せながら、ウキウキとしている姫さんと共に部屋を出ようとした所に国王が声を掛けて来た。
その言葉に周りの者も動揺していた。
そりゃそうだ。
この後、この場では女神からの言葉によって、王国始まって以来、王家の血筋の者以外に対して秘密の口伝が語られると言う、言わば禁断の儀式とも呼べる行為が行われるんだ。
女神の指示は、王の友に対してとの事だった。
それは、勿論王子の事だし、王家の血筋の成人男子である先輩も別にその場に居ても良いだろう。
しかし、そこに俺が居るのはおかしい。
いや、俺の正体的には実際はおかしくは無いのだが、知らない者からすると有り得ないだろう。
一介の冒険者。
少し教導役として噂になった程度で、『踊らずの姫君』と最初に踊った人物なんてのは理由になるまい。
周りの動揺は当然だ。
姫さんだけは何故か嬉しそうだが、その理由は考えたくはねぇな。
「え? えぇと、どう言う事でしょうか? 国王?」
もしかしたら、『口伝を話す』と言う事では無く、他に言い残した事が有るとか、そんな感じかも知れないので取りあえず聞いてみた。
「ここに残って口伝を聞いて欲しい」
「は? い、いえ。それは王家の秘密の口伝ですよね? 俺が聞いて良いモノじゃないでしょ?」
そう国王に問いかけながら、目配せで先輩と王子に『俺の秘密を喋ったのか?』とアイコンタクトを取ると、首を横に振って否定している。
ならなんでだ? もしかして俺を無理矢理姫さんの相手に……?
いや、それはちょっと自意識過剰だな。
なにせ一国の姫さんだぞ? そんな訳無いだろう。
「ほっほっほっ。女神様は言っていたではないか。『友』に話せと」
「い、いやいやいや。友なんて。俺は一介の冒険者ですよ? そんな恐れ多い」
と言うか、面倒事は御免だし。
全力で否定させて貰おう。
「いや、おぬしは我が友のヴァレン学園長。それに可愛い甥のランドルフの共通の友なのだ。それに我が娘を更生させてくれた恩も有る。これが友でなく何だと言うのだ」
た、確かにそうだけども……。
本当に言ってないだろうな? 二人共?
もう一度アイコンタクトで確かめたが、二人は必死な顔して否定している。
ううう、これ以上国王の申し出を断るのは逆に失礼か……。
「分かりました……。残ります……」
聞く事自体はやぶさかではないが、周りの連中の顔を見たらそうとも言えないよな。
……なんで数人、俺と姫さんを交互に見ながら胸を撫で下ろしてるんだ?
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