第7話 蟲毒の森1

 

 幼い時から、その森へは絶対に近づいてはいけないと言い聞かされて育った。


 その森から山へと続く一帯には、いつの頃からか人を寄せ付けない為の結界が張られ、入ろうと思っても入れはしないのだが・・・。


 森の中の何かに呼ばれた者は、本人の意志には関係なく中に引き込まれ、二度と外界には戻って来ることは叶わないのだと言う。それはとうに、どの時代の先祖からの言い伝えであるのかも曖昧な、『あの森には近づくな』と言う謂れによるものだった。



 だが、私はどうしてもその森が気になるのだ。確かに、誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。そう、乳母に言うと


「絶対に近づいてはなりません。そのような方はあの森に誘い込まれ二度と戻っては来ないと言われているのです。お父様やお母様とは二度とお会い出来ませんよ」


とそのように言われた。父や母からは一人息子としてとても可愛がられて育っていた私は、それはとても恐ろしい事だと思った。


 その話は、乳母を通じて父母に伝わったらしく、後日、母の実家に伝わり、嫁入り道具として持って来られた守護の指輪を渡された。その指輪は子供の私には大きすぎた為、金の鎖に通して首に掛けられた。すると不思議な事に、それ以降は私を呼ぶ声は聞こえなくなったのだ。


 後に、私はその守護の指輪をそのままペンダントとして首からずっと下げていた。私を可愛がってくれた母は、私が成人する前に病死し、それは大切な形見となったからだ。


 その後、続く様に父も亡くなり、年月は過ぎ去り、小さな子供の頃に聞こえていた不思議な呼び声の事は、記憶の片隅へと押しやられた。




 だから、今、その事を思い出した事には理由がある。


 数人の従者を連れて、趣味の、美しい色羽を持つ鳥を狩る為森に入った私は、注意していたのにも関わらず、足元の悪い斜面を誤って滑り落ちたのだ。その時、首を掠る小枝にシャツを破かれ、一緒に引っ張られた鎖が千切られた。


 首にかけてあった指輪が飛んでしまった事に気付き、周りを探すが何処に落ちてしまったものか、積み重なった落葉の下に隠れた様で、全く分からなくなってしまった。


 従者とはいつの間にか離されていたのは、既に何かの術中に嵌って居た事にも気づかずに・・・。


 「○○様、お怪我はございませんか!」


 樹に遮られ見えない斜面の上の方から、従者の声が聞こえた。


 鬱蒼とした深い緑の中、服に付いた泥や草のや汁を払いながら、大丈夫だと、言おうとした私の耳に、別の声が聞こえる。いや、耳から聞こえると言うよりも、直接頭に響くような声だ。


 『さあ、おいで、おいで、こちらにおいで・・・』


 その声には聞き覚えがあった。


 抗いがたい声の誘惑に引き込まれそうになりながら、必死に落ちた指輪を探す。



 亡くなって久しい、母の、『そちらに行ってはなりません』


 という懐かしい声がした様な気がした。


 だが、頭に霞がかかるように、周りの輪郭がぼやけて行く。


 知らず私の歩む方向は、あの森の方向へと向いていた・・・



 


 

            ※   ※   ※

 






 アンテルベ男爵領の端にある、山間の農村ファブリルから山道に分け入り、そこから山を抜けると隣領のシュバリー伯爵領に抜ける山道がある。山道と言うよりは、獣道と言った方が正しい様な道である。


 シュバリー伯爵領地の山には季節ごとに恵みが多くあり、貧しい暮らしをするアンテルベ男爵領の農民には有難い山だった。


 そしてその辺りの山は水晶屑の出る山でもあった為、それを欲しがり山に分け入る者も多くいた様だ。


 水晶屑と言う位なので、大して価値の有る物ではない。長い年月の内にあらかた採り尽くされ、その屑が偶に見つかる程度のものである。


 遠い過去には、水晶山を争ってこの辺りでは戦が起こったのだと言う言い伝えもあった。


 だが、今ではもちろんそれとてシュバリー伯爵領の資源であり、領主の許しがなければ勝手に採る事は出来ない。

 隣領の領民となれば尚更だ。それを知っていてなお、その山にこっそり入り込んだ者が行方不明になるという噂はファブリルには随分昔から有った様だ。


 有った様だ。という言い方もおかしな話だが、今回騒ぎになった発端は貴族の子弟が行方不明になった事からだった。調べて分かった事だが、それまでもファブリル側から山に入った者の行方が分からなくなると言った話はあちらの領民の話では昔から有ったのだ。


 逆に、シュバリー伯爵領からファブリルに抜ける者も居た筈なのだが、シュバリー伯爵領ではその様な話を聞く事は無かった。シュバリー伯爵領地からのその山への入り口は、マール村という農村だが、その手前にあるガルトという町は湖のある美しい保養地でそこそこ有名だった。


 そこからマール村を抜け、山を越えてファブリルに抜ける者は偶に居るのだと言う話は、よくよく調べれば出てきた。ここは地元の者にとっては隣領に抜ける秘密の近道でもあったが道自体は狭く、馬でも途中までしか入れない。つまりは地元の者しか知らない抜け道だった。山の標高は低く、森から続くなだらかな山だった。


 けれども、圧倒的にシュバリー伯爵領側にアンテルベ男爵領地側から入り込む領民が多いのは、アンテルベ男爵領地が資源に乏しく、そして土地が痩せていて、貧しい領地だったからだ。


 元々、その抜け道はシュバリー伯爵家の結界の張られた悪い謂れのある私有地の脇を通っていた為、シュバリー伯爵領側の地元の者は近づくのを嫌がっていたのだ。


 だが、今回、行方不明となった貴族の子弟というのが、城で財務官の長を務めるアダレンド・フォルテスの次男であった事で、事は大きく取り上げられた。


 このフォルテス卿の次男は、身体が弱くガルトに保養に来ていたにも拘わらず、共を連れずに何故か山に入ったらしく、慌てて追いかけた共が、地元の者の案内で山に探索に入ったものの、結界のある私有地近くまでは行ったが、結局、子息を見つける事は出来なかった。一度宿に戻り、山越えの支度をしてアンテルベ男爵領へと抜けて見たが、子息の行方は杳として分からなかったのだ。


 それでフォルテス卿が内々に人を使って調べた結果、どうやらその山道は、行方不明者が今までも出ている場所だと判明したのだ。シュバリー伯爵の方にも個人的に打診をし協力を求めたが、良い返事は貰えず困ったフォルテス卿は魔法師団に調査を依頼して来たのだ。


 どうやら、シュバリー伯爵は病を患い床から起き上がれない程具合が悪いらしく、問い合わせに応じた領主の側近の歯切れが悪くどうにも探索も進まなかった様だ。


 シュバリー伯爵は早くに妻に先立たれ、子供にも恵まれず、後継は親族から養子をという話が出ていた。


 この、シュバリー伯爵領は肥沃な土地と資源に恵まれているにも関わらず、何故か領主家族は短命であった。

 現在の当主は、言わばシュバリー家の主筋の最後の生き残りとも言える人物だった。


 ダイロクの調査機関が『虫』や『鳥』と呼ばれる魔道具を使って山を調べたが、そのいずれもその結界付近の山中にて壊れた様で、途中で調査が中止されてしまった。


 だがその事で、怪しい場所が浮き彫りとなり、遂には魔法師団が動かされる事となったのだ。


 


   ※   ※   ※



 

 「で、結局このメンバーってどういう事なんだろ?」


 ジュディーが五人の顔を見回して、首を傾げている。

 

 「そっち系の仕事なのかもしれないな」


 ヘレナが打ち合わせの為に集まった会議室で、第三師団の団員二人のうち一人に視線を向けて言った事に対して、視線を向けられた相手は嫌そうに鼻にシワを寄せる。


 「冗談言わないでくれるか、偶々だろう」


 彼の名はライト・ヘミングス。第三師団で風魔法が得意だ。ついでにそっち系の霊感体質らしい。

 金髪直毛の短髪で、ブルーグレーの瞳をした大柄な男性だ。


 「アハハ、君達とは久しぶりだよね。私は同じ師団でヘミングスとは組むことが多いから、前に組んだ者同士って事かもしれないな。どうしても調査込みの長期の遠征だと相性もあるから、君達となら合うと上から思われているんじゃないかな?」


 この人はブルガリ・ヴィルト。やはり第三師団で、炎系の魔法が得意。二人ともコモーナ侯爵領で仕事を一緒に組んで片付けた事がある。白金の波打つ癖毛が背中の中ほどであり、それを首の後ろで瞳と同じ青い紐で括っている。以前より前髪も長めで、顔右半分覆うように垂れている。見た目優男風で軽い口調で話す人だが、面倒見が良い。五人の中では一番年上になる。


 ヘレナにはこの前髪が煩そうに見えるらしい。


「ヴィルトさん、さっきから気になっていたのですが、前髪が煩くないのですか?」


「いや、最近ずっとこんな感じだから気にならないよ、切りに行くのが面倒なんだ」


「そうですか、ならべつに良いです」


 本人が良いのならべつにいいや的な感じで、興味が無くなった様子のヘレナだった。


「それならヘミングスさんの風魔法でプスッて切って貰えば早いかもね」


 すると、今度はジュディーが口を挟む。


「いやあ、それは怖いよ。顔だからさ」


 ヴィルトさんが困った顔をして、掌をバタバタと振る

 

「私は、そんな事に魔法を使ったりしない」

 

 それに反応して、むっとした口調でヘミングスさんが言う。


「冗談に決まってるし、相変わらず冗談通じないよね、ヘミングスさん」


 ジュディーは全く動じていない。


 会議室にはお茶を淹れるコーナーもあるので、私はお茶を淹れながら会話を聞いていて吹き出しそうになった。

 皆それぞれ、相変わらずの様だ。


 第三師団の二人とも以前と変わらぬ様子で、ヘミングスさんは一見ツーンとして、取っつきにくそうに見えるし、ヴィルトさんはフォロー役だ。


 「でも、ヘミングスさん怖がりだからね、大丈夫かなあ」


 ジュディーが横目で見て、顎に手を当てニヤリと笑った。

 

 「ばっ、馬鹿な事を言うな」


 「ちょっとヘミングスさん、上から唾飛ばさないでよ」


 腰に手を当ててジュディーはヘミングスさんに文句を言っている。見た目の愛らしさと性格が相反しているジュディーが臆することなく大きな身体のヘミングスさんに物申している情景は、知らない人が見たら驚くだろうけど、ここにいる他四人は慣れているので何とも無かった。


 遠慮の無いジュディーの言葉に口をパクパクしているヘミングスさんが顔を赤くしている。ヘミングスさんは身体は大きいのだが実はとてもシャイだ。前回の遠征の時もどちらかと言うと、弄られ枠だった。


 やれやれと困った子を見る様な目で見ているヘレナと、ヴィルトさんだ。

 前に休暇の時、ヘレナとジュディーの実家に遊びに行った事があるのだが、今と同じような情景が見られた。


 ジュディーの兄姉は、皆ジュディーのお父さんに似て大柄で、大きな身体のお兄さんに対しても同じようにジュディーは遠慮なく物を言っていた。彼女の好みはヘレナのお兄さんの様な、妖精の様な可憐な男性の様だ。彼の前だと可愛い容姿に似合った淑女になる様だった。



「えーと、お茶を淹れたので、皆座って下さいね」


 私は備え付けのワゴンで会議室のテーブルまでお茶のセットを運んだ。


「フィアラありがとー。お茶淹れるのフィアラが一番上手だから任せちゃったね。うーんいい香り」


 ジュディは嬉しそうにお茶の香りを楽しんでいる。彼女は裕福な伯爵家の令嬢だったりする。


 家が騎士の家系という事も有り、本人の意志でそちらの方に重きを置いて育ったので、自分でお茶を淹れるという事に慣れていない。っていうか、ぶっちゃけ女性らしく細かい事をするよりは武闘に力を入れて来た。好き嫌いの問題だそうだ。自分でこういう事にはセンスが無く不味い茶しか淹れられないのだと嘆いていた。そこはヘレナも同じ様な感じらしい。


「うん、大丈夫、お茶は家でも好きで自分で良く淹れるから、任せてよ。それに、今日はお茶請け持って来たの」


 貴族の娘が自分でお茶を淹れると聞くと、眉を顰める貴族もいるだろうが、割と魔法師団内では寮で暮らす者も多く、自分の事は自分でという風潮があるので、誰も気にしない。


 それよりも、仕事後のお茶タイムなので、お茶請けと聞いて皆いそいそと席に着く。おやつにたかる子供の様だ。


「フィアラ、これは何だ?」


 私が携帯用の缶筒からそれを皿にコロコロと零すと、まず、ヘレナが不思議そうに聞いた。


「夕焼け色の葡萄の干したものかな?にしては形が違う。見た事の無い色合いだが綺麗だな。匂いはあまり感じないな・・・」


 ヘレナは慎重に分析中だ。


 それを横目でで見て、一つ摘まんでヴィルトさんがしげしげと眺めた。匂いを嗅いでいるが首を傾げている。指の関節一つ位の楕円の琥珀がかったオレンジ色の実なのだが、乾物である事は手に取って見ると、硬さや手触りで分かるのだが匂いもほぼ無い。


 干しブドウなどは、シワシワしているが、それ程のシワも無いのだ。


「デーツと呼ばれる、なつめやしの実で、東の国が産地のフルーツの干した物です。とても甘く、疲労回復に良いんです。あ、種が中にあるので気を付けて下さい」


 無言で先にヘミングスさんがデーツを口に放りこんだので、声をかける。

 皆、彼に注目しているとモグモグしたあと、手の平にピーナツの様な種を出した。


 種を出す為に、小皿を置いておいた。


「なんて濃厚な甘さだ。こんな甘くて旨いドライフルーツがあるのか?」


 驚いたようにそう言い、今度はごくごくと私の淹れたお茶を飲む。


「この茶も旨いな、うんよく合う」


 ヘミングスさんは自分でポットからお茶を注ぎ足した。貴族に生まれても自分の事を自分でやる事に抵抗のない人というのが魔法師団では多い。もっとも、人にして貰う事が当たり前だと考える人は魔法師団ではやっていけない。


 そして相好を崩して、美味しそうにもう一つ口に入れるヘミングスさんを見て、皆、皿に手を伸ばしデーツを口に含む。


「美味しい!外側がザクッとしてるけど中はなんか柔らかくて、まるでお菓子だねこれ」


 ジュディーも種を出すと、また一粒取り口に入れる。


「本当だ、癖もなく純粋に上品な甘さなのだが、とても濃厚で旨い」


 ヘレナが感心しながら少しずつ齧っている。彼女はあまり甘い物を好まない質だ。


「旨いね。私は甘い物はあまり食べないのだが、これは旨い」

 

 ヘミングスさんの反応も上々だ。彼もあまり甘い物は食べない様子だ。


 もともと、甘い物はやたら甘い物が贅沢品とされる貴族の茶菓子の考え方も、今後はお菓子自体が『ラ・ディーア』の作るお菓子の様なもっと違う美味しさを考えた物が出始めた事で変わって行くんじゃないかなと思った。


「もうないのか?」


 とはヘミングスさんの言葉だった。


「今日持ってきた分はもう無いので、また持って来ます。遠征にも持って行きますから楽しみにしておいて下さい。でも食べ過ぎには注意ですよ」


「わーい、楽しみ~」


 ジュディーが手を叩く。こういうスナック感覚のお菓子という分類が貴族文化には無いので、遠征に持って行けば皆手軽に食べられるから喜ばれるだろう。日持ちもするので、状態維持という高度な魔法も使えなくて大丈夫だ。


「じゃあ、お茶も頂いた事だし、打ち合わせ会議だな」


 やはり、こういう仕切りはヴィルトさんの物だなと感心した。 



 今回の遠征は、シュバリー伯爵領のガルトの町に魔法陣で飛び、そこを拠点にして動く。もしかしたら野営もあるかもしれないという話だった。それなりの用意をして、ダイロクから野営用の魔道具一式を借り受けた。


 領主館のあるガルトの町からマール村に入る予定だが、そこは本当に小さな農村なので、宿泊施設等は無いのだ。それに、シュバリー伯爵側は非協力的だという話だった。だが、まずはシュバリー伯爵に会う必要がある。


 そちらの方の連絡は王城の方からシュバリー伯爵に面会の申し入れを入れて貰ったが、体調不良を理由に断られた。領主は動けない為、魔法師団独自の捜索をして貰って構わないという連絡があった様だ。


 打ち合わせを済ませて、明日には出発する事となった。仕事の引継ぎ等があれば済ませておくようにとヴィルトさんが言い、会議はお開きとなった。


「おい、フィアラジェント、『デーツ』頼むぞ、多めにな。荷物なら私が持つ」


 ヘミングスさんが、ぼそりと横に来て言った。やはり甘党の様だ。


「はい、沢山持って行きます」


 丁度、十字島から新しく収穫された分が届いていた。


「おう、じゃあ今回も宜しくな」


 ヘミングスさんは嬉しそうに手を上げて去って行った。


「フィアラジェントはなかなかやるな、餌付け成功だ。あいつ、甘い物が好きだったんだな、知らなかったよ。じゃあ、君達、遠征宜しくな」


 ヴィルトさんもそう言って去って行った。


「私達も、遠征の準備しておかないといけないな。じゃあ今日はこれで帰ろう。茶器は、フィアラは片付けないで良いぞ、fジュディーと二人で片付けて帰る。寮に帰るだけだから大丈夫だ。フィアラはもう迎えの馬車が待っているだろう」


「そうそう、フィアラはお茶を淹れる係で、私達は片付ける係って事で、分担ね」


「うーん、それで良いならそうさせて貰うよ」


「そうしてよ、私達も助かる」


 二人がそう言ってくれるので、それに乗る事にした。


「うん、いつでも言ってくれたら変わるから、じゃあお願いする」


「オケオケ、こっちは任せてよ」


 それから二人と別れて、馬車留めまで行き待っていてくれたフィルグレットに声をかけて、ヴァルモントル公爵家の馬車に乗って帰った。





   ※   ※   ※





「ジュディー、皿を落とさない様に気を付けて片すように」


 浄化をかけて綺麗になった食器を一つずつテーブルの上に置いていきながらジュディーに声をかけた。


「わかってるよ、寮で練習して慣れたから大丈夫。お茶の淹れ方もそのうちフィアラに習いたいと思ってる」


 魔法の扱いに関しては、すばらしく上手いジュディーだが、それは家事をする事には何も関係ないらしい。


「そんな事を言っているが、この間、寮に備え付けのポットにカップをぶつけて欠けさせただろう?」


 胡乱な視線をジュディーに向ける。


「何で知ってるの?ったく誰がチクったんだか。ヘレナ、ジルベール様にそんな話しないでよ」


「はあ?何故私がいちいち兄上にジュディーの失敗談を話さなければならない?」


「えっ、いやまあ、その、何でも・・・もう、いいよ!」


 ジュディーは真っ赤な顔をして挙動不審になった。


 ガッチャーン!


「「あ」」


 直ぐに私は備え付けの塵取りと箒でささっと食器の欠片を片す。こういうのは自分の得意魔法でもない風魔法を使って集めようとか思わずに、さっさと道具を使って片付けた方が早い。


「うううっ、何故、お皿に治癒魔法が効かないのよ!」


「効いたら怖いわ!」


 適当にツッコミを入れた。いつもの事だ。


「うーん、フィアラの様に優雅にお茶を淹れられる様になるには道は険しい・・・」


「目指すのはいいが、まずは壊れ物は丁寧に扱おうか」


 うんうんと二人で頷きながら、その場を片付けた。


 


 

 


 


 

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