第三章 ~トーナメント編~

第19話 チーム分け






「よーし、今日も何とか間に合ったな」

「ロイも早く起きれば余裕を持てるのに……」

「あっ、朝は弱いんだよ……」


 今日も僕とロイは教室へ到着した。

 このクラスでの授業も半分が経過したのだが……このクラスでは何故か、賑やかに会話を楽しむようなグループは出来ていない。


「おはようございます~! 全員揃ってますね? ではでは早速……ご存知の人も居るかも知れませんが、今日は通常の授業ではありません! トーナメントのお知らせとチーム分けをしますよ~? パチパチ~!! 」


 相変わらず雰囲気の明るくならない教室へキャロル先生も到着し、授業……と言うより、トーナメントについての説明が始まった。

 ここで話された内容を要約すると、トーナメントとはこの学園で行われる学園祭のような物だ。上位学年であれば個人で戦う場もあるらしいが、僕達の学年生はチーム戦がメインになるらしい。


 楽しそうだな~と目を輝かせる僕や先生とは対象的に、多くの生徒は暗い面持ちをしていた。

 周りが暗い理由に疑問を持ちながらも話は続き、僕はその説明を大人しく聞き続ける。


「さーて、人数の少ない我がクラスですが他クラスと同様にいくつかのチームに分かれてもらいます! 」


 教室の全面に設置されている黒板に書かれたチームは『ギルバード・クリフ、ロイ・ブラン、エミリー・クリスタ』チームと『ファルティス・テフィラー、ラシム、タツヤ』チームの二つだった。

 その発表が終わると、キャロル先生はいつも通り授業を始めた。



「――――さて、それぞれ親睦を深める必要があったりすると思いますので……少し早いですが今日の授業はここまでです。お疲れさまでした~! 」


 しばらくすると授業はいつもの半分程の長さ終わり、挨拶を済ませた先生は足早に去って行った。

 授業の短さに驚きつつ今日の予定を考えていると、やけにニヤついたロイがこちらに近付いて来た。


「ギル、今日は遊びに行くぞ! 」

「はぁ……断っても無理矢理連れて行くんでしょ? 大人しく行くよ、場所は? 」

「今日は知り合いにオススメされた店があってな……そこに今から行くんだ。勿論、エミリー・クリスタも連れてな!! 」






 ――――――――――――――――――――






 ロイが案内した店、そこは大通りと裏通りの狭間に存在する小さな店だった。

 入り口上に置かれた木の看板には『竜の隠れ家』と店名が刻まれており、一見すると入りにくそうな印象を受ける作りをしている。

 だがロイは遠慮をすることもなく、行きつけの店のような感覚で扉を開く。


「店長、来たぜ!! 」

「おう、来たかガキンチョ。そっちのお二人さんが連れか? 」

「あぁ」


 厨房の奥にはスキンヘッドの大男が何か料理を作りながらロイと話をしていた。

 二人が話している間に店の中をぐるりと見てみると、小さく入りにくい印象を受ける外見とは裏腹に店の中は広かった。多くの個室や広い厨房がもうけられていた。


「ってことはあっちのガキが……おい、トム! 」

「はいはい、そんな大声出さなくても聞こえてますよ店長……」

「案内してやれ、一番奥の部屋だ」

「へいへーい、そんじゃ行きますぜ」


 店長が大声で呼ぶと、個室から一人のひ弱そうな男が汚れた皿とコップを持って現れた。彼は個室の中で片付けをしていたらしい。

 皿を置いたトムに案内され、僕達は一番奥の部屋に入る。


 するとそこは掃除されたホコリ一つないキレイな部屋だった。

 壁には窓がなく、その代わりにランタンとタペストリーが飾られていた。いくらランタンがあると言っても、窓からの光が無いと部屋は暗いはずだ。

 それでもテーブルの中心は何故か明るい。その理由を探して視線を上げると、そこには独特の形をした採光窓がいくつか作られていた。

 どうやらあれのお陰でテーブルの上は明るいようだ。


「ご注文は? 」

「定食を三つ、飲み物は……俺は水で大丈夫だがお前らはどうする? 」

「僕も水で大丈夫だよ」

「私は紅茶で……」

「あー、あと巷で話題のケーキも食後に頼む」

「うっす、少々お待ち下さい」


 注文を受けたトムが部屋から退出すると部屋の中はとても静かになった。

 そんな空気の中、真っ先に口を開いたのはロイだった。


「突然連れてこられて訳も分からねぇと思うから……まずは自己紹介と行くか。俺はロイ・ブラン、そんでこいつが……」

「ギルバード・クリフです、よろしく」

「そんでこっちのお嬢様がエミリー・クリスタだ」

「よろしく……お願いします……」


 僕が挨拶をしながら手を差し伸べると、クリスタさんは俯いたままだが一応手は握ってくれた。

 ここから先どうすれば良いのか助けを求めてロイを見るも、何故か面白いものを見るような顔をして黙っている。


「あっ、あの……私はこれからどうなっちゃうんですか……ボコボコにされてポイされるんですか……? 」

「……へ? 何故にボコボコ!? 」

「だって……私戦いは苦手ですし、クリフ家の人は皆怖い人らしいって聞いているので…………」

「クッ……グハッ……だっ、駄目だこれ……クククク……アハハハ!! 」


 彼女は僕の手を握ったまま顔を上げ、目から滝のように涙を流しながらそう話した。ロイは腹を抱えて笑っている。

 僕? 僕は頭を抱えているよ……


「フヒヒヒヒ! ハハハハ……あー、笑った笑った……」

「ロイ……」

「いやぁ……だってその方が面白そうだったし、実際面白かったし」


 ――面白いのは君だけだよ!!


 衝動的に言いそうになった言葉を何とか抑え込み、ロイを見るとウィンクをしていた。どうやらこの一連の流れには何か狙いがあったらしいが、明日の朝は覚悟して貰おう。


 そんな裏がありつつも、場の空気は少し和らいだ。それに釣られて彼女も少し落ち着いたのか、強張っていた顔は少し緩んでいる。

 そして僕はようやく手を離して貰えた。


「まぁそんなことより、エミリー……で良いか?」

「はい」

「君の聞いた“噂”は半分本当で半分ウソだ」

「半分!? やっぱり私はボコボコにされるんですか……? 」

「だからそんなことしないよ、全く……ロイはつまらない冗談を言うし、エミリーも鵜呑みにするし……」


 ちなみにロイ曰くその“噂”は、僕を陥れたい誰かが流しているらしい。

 その噂があっても突っかかってくる奴らは多く、候補となる人物はかなり多い。そして僕に魔法で攻撃したりするのは大半が大貴族の派閥に属している。

 つまりこれは貴族同士の派閥争いそのもので、“噂”を流した人物も恐らく僕ではなく父さんや母さんを陥れたいのだろう。


 そんな予想を立てていると、何度か優しく扉が叩かれた。


「お待たせしました、注文の品です。それではごゆっくり~」

「お、キタキタキター! 面倒臭い話は飯食ってからにしようぜ!! 」


 トムは何度か部屋を出入りして美味しそうな匂いを漂わせる定食、水の入った瓶、茶葉とお湯の入ったポッドにいくつかのコップを置くと静かに去っていった。


 美味しそうな匂いを漂わせる定食は期待を裏切らず、本当に美味しかった。絶妙な加減の味付けは食材の旨味をしっかりと引き出し、脳にもお腹にもしっかりと満足感を与えてくれる。食後には紅茶を飲み、他愛のないことを話した。

 するとエミリーも次第に慣れてきたのか、自然な笑みが見えるようになってきた。


「失礼します、ご注文のケーキをお持ちしました」

「あ、もしかしてこれって……」

「ご明察、ヘスターの隠れ名物ケーキだ」

「皆どこにあるのか探していましたが、まさかこんなお店にあったとは……!! 」


 この世界では貴重な砂糖や新鮮な牛乳が大量に使われたケーキ、それは相応に高級な食品となる。だからといって別の地域でも手に入らない訳ではない。


 だがこの店のケーキがそこまで話題になる理由は、流通すつ数の少なさと作りの繊細さにある……とエミリーが熱弁していた。

 何でもこれは店長一人の手作りで、しかも気が向いたときにしか作っていないらしい。故に極限られた人しかケーキの存在は知らない……と言うのはロイの情報だ。


「それにしてもトーナメント、楽しみだな~……」


 僕も昔ウェインやステラ、顔なじみのハンターに訓練をしてもらった事がある。だが体格差、経験や単純な力の差で何度も負けていた。その度に擦り傷を作って、母さんをなだめるのが大変だった。

 そんな昔を思い出していると、ロイは可愛そうなものを見る目で、エミリーは恐ろしいものを見る様に涙目でこっちを見ている。


「言うと思った」

「……やっぱり噂通りの怖い人なんじゃないですか!? 」

「え? 何で? 」

「あのな? お前は余裕かもしれねぇが、他の奴にとっちゃただヒエラルキー上位の奴らに痛めつけられるだけのイベントだからな? 」


 キャロル先生は特殊な魔道具により怪我は無いと言っていた。だがそれも完璧では無く、衝撃は伝わる。それにより怪我をしてしまう事が時々あるらしい。そしてそれは時々起きており、事故として処理されているらしい。


 つまりこの間のアイツらが言ってたのは『トーナメント中であればお前に怪我を負わせられるんだぞ? 』という事のようだ。

 だけど説明の時にそんな事は言われていなかった。


「キャロル先生は俺たちを騙したの?」

「いや、先生も知らないっぽい。外国から来た人らしい上に新任らしいからなぁ……キャロル先生も嵌められたんだろうさ」


 つまりそんなことを知らなかった先生と僕だけが目を輝かせていたということか……少し恥ずかしい。


 ちなみにこういうことは過去にも起きているらしく、教師陣は被害に遭う生徒を守る……なんて事はせず、自分の経歴を守る事しか考えてない。

 つまり教師陣はその大半が上位貴族の家に生まれた生徒に買収されるということだ。

 それとは反対に被害者は大抵下級貴族か平民……つまりそういう事らしい。


「なんか……貴族って面倒だね~……」

「人と付き合うってのはそういうもんだろ。まぁ、ウチはギルがいるから何とかなるだろ! 」


 信頼してくれるのは嬉しいけど、完全に他人任せ……





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