【閑話】 アンドレイの日常とデルカの日常






 Sクラスになったスティージ王国の第二王子、アンドレイ・スティージ。

 彼は前世の記憶と人格を完璧に保ったままこの世界に生まれ落ちた、所謂転生者という部類の人間だ。


 彼は前世の記憶チートを生かして色々やらかす……事も無く、第一王子と同じ様普通に学園へと通って授業を受けている。

 何故なら現在手にしている地位と権力、それを手放したくないからだ。


「――こうして世界は作られたと言われています。ここまでで何か質問はありますか? 」


 今は歴史の授業が行われており、Dクラスギルバード達の授業と同じ内容が話された。アンドレイとななった相澤、彼が生来信用しているのは純粋な力だけだ。

 世界をも創り出す剣は絶大な力を持つだろう。アンドレイの心にはそんな剣を、何としても手に入れたいと言う欲望が渦巻いた。


「はい」

「どうぞ、アンドレイ王子」

「創界の剣はどこに封印されているのですか? 」

「良い質問ですね。世界をも創る程の力を秘めた創生の剣は、世界に危機が訪れた時だけ……もう世界が我々の手ではどうにもならなくなった時にだけ、神が選んだ者へ渡されると言われています。その剣自体は世界樹に預けられたと言い伝えられているのですが、肝心の世界樹との接触は長年行われておらず――――」


 教師から返ってきた答えは結局、現段階では創生の剣の所在がハッキリと分かっていないという事だ。だが少なくとも存在する場所は割れており、世界樹さえ見つかれば手中に収める事が出来る。


 いつもはただ張り付けているハリボテな笑顔のアンドレイだが、この時は心の底からの笑顔が顔に浮かんでいただろう。

 だがそれもすぐに消える去る。何故なら彼は“アンドレイ”を演じ続ける必要があるから……




 ――――――――――――――――――――




 時は少し遡り、ギルバードが学園生活に少し慣れてきた頃。

 狩人の集いギルドデルカ支部の一室には、二つの人影があった。


「カイエル支部長、ウェイド子爵より『近日中に森の大掃除をする』旨の知らせが届いています」

「もうそんな季節ですか……」


 椅子に座り頭を抱えるカイエル支部長と、淡々と報告を進めるティファニーだ。

 彼女の言う大討伐とはデルカを治めるクリフ家、そしてデルカに滞在しているハンターによって定期的に行われる魔物の殺戮ショーの事を指している。


 ギルバードがハンター達と共に戦い抜いたスタンピードの魔物達も、本来はこの時に討伐される予定だった。

 ここデルカの森は他の森と比べると特殊で、木々の再生スピードが異常に速い。だがハンター達と魔物の大規模な戦闘は、そんな森であっても即座の修復が不可能な程に被害を与える。

 だからこそ普段から適度に依頼を回し、出来る限りスタンピードを回避していた。


 だがあの時は回避出来なかった。その原因は調査中との事だが、大掃除の知らせが届いたという事は森が相応に回復したと子爵家は判断したのだろう。

 ティファニーは戦場を作り出す者達と新入りの存在を頭に浮かべ、強い不安に駆られた。


「支部長、クリフ家お抱えになった農民崩れの彼ら……あのバカ共ハンターの滅茶苦茶な攻撃から生き残れるのでしょうか……」

「まぁ中央に出せば死ぬでしょうね。彼らは成果を急かすでしょうけど、私の方で適当に配置を動かしておくので……ティファニーさんは知識面でのサポートと説得をお願いします」

「承知しました」


 ティファニーの言う農民崩れの彼ら、それはギルバードが学園へ向かう途中で遭遇した盗賊達の事だ。

 情報源兼戦力としてお抱えになっている

 戦闘訓練にここへ良く顔を出しており、死なせるには惜しいと思っている


「それと……」

「何ですか? 」

「ジュリアン様より『プリンさんとフェリエリさんを貸して欲しい』と申し付けられたのですが、大丈夫でしょうか? 」

「彼らを? うーむ……特に問題は無いので指名依頼として処理して貰って大丈夫ですよ。他に報告はありますか? 」

「いえ、以上です」

「分かりました、お疲れ様です」


 そうしてプリンとフェリエリの二人はヘスターへと向かい、ギルバードにプレゼントした剣……クリスタルホーンとクリムゾンアギトの使い方を教えた。

 周囲に結晶をバラ撒きすぎて何度か転んだらしいが、それはまた別のお話……





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