第4話 フォレストドッグ

 シュッシュッシュッ。


「ゴブブ!」


 『名無し』は磨き上げた小石を高らかに掲げた。スライムを倒す事に味を覚えた『名無し』は数日ひたすらにスライムを狙ってレベル上げをしていた。しかし、どういうわけか10から全くレベルが上がらなくなってしまっていた。

 そこで、『名無し』はより強い魔物と戦う事を決意した。だが、単純に素手での戦いでは、不安が残る為、武器を作成することにしたのだ。

 『名無し』は磨いた小石を蔦で木の枝の先端に括り付ける。あっという間にそれなりの殺傷能力のある『槍』の完成だ。


「ゴブ!」


 磨いた小石の先端がしっかりと魔物に突き刺さるか、拾ってきた木の実で試し突きをする。比較的堅い木の実を選んでついてみると『サクッ』と音をたてながら、いとも簡単に槍は木の実を貫いた。


「ゴブグぁ!」


 上場の出来に歓喜の声を上げる『名無し』。それもそのはず、『名無し』がこの武器の作成に費やした日数は3日。そのうち2日はとにかく小石を磨く事に専念し、食事を取る事さえ忘れていた。

 早速意気揚々と、洞窟を出る『名無し』。槍を片手に持ち、堂々と歩く姿は、正にハンターのそれである。


「ウォン」


 『名無し』がしばらく森の中を歩いていると、黒い体毛の魔物が何かに貪り着いている場面に遭遇した。4足歩行に鋭い犬歯、青い冷めたような目、フォレストドッグはうまそうに今狩ったばかりであろう魔物を喰らっていた。血だらけの口元があまりにも不気味である。


「ゴブぅ……」


 食事に夢中になっているフォレストドッグにそろりそろりと近づく、『名無し』。うまくフォレストドッグの背後に周り込むことが出来ると、深呼吸をし、身構える。


 『ごくっ』


 『名無し』は唾を飲み込むと意を決してフォレストドッグに突っ込む。


「ウォン?」


 何かの足音に気付き振り返るフォレストドッグ。だが、時すでに遅かった。『名無し』の持つ槍はフォレストドッグの後ろ右足を完全に捉えていたのである。


「ウォオおおおおおおん!」


 痛みから、叫び声をあげるフォレストドッグ。だが、この好機を『名無し』は見逃さなかった。

 今度は右足から引き抜いた槍をフォレストドッグの脳天目掛けて振り下ろす『名無し』。その躊躇のない一撃をフォレストドッグは躱すことが出来ない。

 『ブスっ』っと鈍い音をたてながら完全にフォレストドッグの頭を槍は貫いた。噴き出る血で『名無し』の顔が汚れていく。


「ゴブぅ、ふぅ」


 フォレストドッグは完全に動きを止め、そこに横たわった。それを見た『名無し』は緊張の糸が切れて、息を漏らす。

 あまり、戦いが好きではない、『名無し』であったが、戦いのときは狩猟という名目に置き換えることで、躊躇なく戦えるようになっていた。スライムは絶命すると溶けるように消えてしまうが、今回のような敵は、しっかりと捕食して、自分の

血と肉に変えることにしていた『名無し』はフォレストドッグの腹の部分の肉を少量だけ剥ぎ取り、いつもの洞窟に戻るのだった。



「ゴッブー!」


 ただいまの挨拶をし、洞窟に入る『名無し』持っていたフォレストドッグの肉を調理用の岩の上に置き、取り敢えずレベルの確認をする。


「ゴブッ!」


 『12』1回だけの戦闘で、レベルが2も上がる事など初めてだった『名無し』は喜びと驚きで変な声が漏れ出ていた。自分より、地の力が強い敵であれば、レベルも上がりやすいようだ。


「ゴブぅ! ゴブぅ!」


 『名無し』は鼻歌を洞窟内に響かせながら、火をおこし始めた。フォレストドッグの肉を焼く為だ。魔物の肉を生で食べる習慣はゴブリンにはないのだ。

 種火を薪にくべてやり、息を吹きかける。火が燃え上がり、パチパチと音が聞こえだす。火の準備ができると、今度は肉を木の枝に突き刺し、森になっていた塩気のある木の実『ヌルデ』を乾燥させ、砕いた粉末を振りかける。ゴブリンにとってヌルデの実を使った調理は定番である。

 肉の刺さった木の枝を火の近くにたて掛け、焦げないように、面を変えつつ、焼いていく。料理が好きな『名無し』にとってこの工程はむしろ楽しく感じられた。


「ゴブゴブゴブ!」


 しばらくしてしっかり焼けたのを確認すると、『名無し』は思い切り肉を頬張る。肉はあまり好きではないが、自分が狩ったものだと思うと、いつもより、おいしく感じられた。


「ゴブ?」


 肉を食べきったころ、『名無し』の中で何か熱く込み上げてくるものがあった。力が漲るような不思議な感覚。だがその正体を知る事よりも、戦闘の疲れからくる睡魔の方が優先された『名無し』はそのまま眠りにつくのであった。

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ゴブリノイド~ニンゲンに恋したゴブリンは女冒険者の奴隷です~ シュン @rave3173

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