第3話 レベルアップ

「ゴブぅ、ゴブぅ……」


 『名無し』は村から離れ、森に戻ると、住処にしていた小さな洞窟に籠り、ひたすら、腕立て伏せをしていた。

 守衛の人間が、たまにトレーニングとして行っていた、腕立て伏せ、上体おこしを『名無し』は真似ていたのだ。


「ゴブぅ……」


 丸二日間筋トレを続けていた『名無し』だったが、魔道具の数字は全く変わらない。頭を抱えながら、レベルアップに何が必要か考え直す。


 ポヨんっ。


 『名無し』がしゃがみ込み、頭を悩ませていると、入口の方で何かが跳ねるような音が聞こえた。不思議に思った『名無し』は恐る恐る洞窟の入り口に足を運ばせる。


 ポヨんっ。ポヨんっ。


 すると『名無し』の眼前に青いぶよぶよした生き物が2匹が写り込んだ。スライムだ。どうやら、スライムは洞窟の入り口辺りに出来ていた水たまりの水を啜っているようだ。


「ゴブぅ……」


 この時『名無し』は集落での出来事を思い出していた。



 ある日、『名無し』と仲間のゴブリン達で食料を外で集めていた時の事だ。せっせとみんなで、木の実を拾い集めていると、背後からけたたましい鳴き声が聞こえてきた。『名無し』が慌てて振り向くと一体のコボルトが立っていて、コボルトは一片の躊躇もなく『名無し達』を襲ってきた。

 

「わおおおおおん」


 涎を垂らしながら『名無し』達に襲いかかろうとするコボルトだったが、飢餓状態にあったのか、動きは遅く、逃げるのは容易な状況だった。急いで逃げようとする『名無し』。しかし、それとは反対にコボルトに攻撃を仕掛ける仲間のゴブリンが一匹いた。

 そのゴブリンは、落ちている太めの木の枝を握りしめ、コボルトと対面する。

 『名無し』と他のゴブリンは逃げるのを止め、その様子を傍観する。


「わおおおおおおおおん」


 まず、仕掛けてきたのは、コボルトだった。コボルトは、ゴブリンとの間合いを詰め、鋭い爪を緑色の体に突き刺そうとする。それをひらりと躱すゴブリン。ゴブリンにとってコボルトの動きが鈍くなっている今でこそ出来た芸当である。

 難なくコボルトの攻撃を躱したゴブリンは、コボルトの背後に回り込み、コボルトの頭を木の枝で殴打する。しかし、コボルトの頭が予想以上に堅く、枝は折れてしまった。


「わおおおおおおん!」


 攻撃を喰らったコボルトは、怯む様子もなく振り返る。慌てたゴブリンは、振り向いたコボルト目掛けて、折れた木の枝を今度は突き刺すように振り下ろした。

 すると、その木の枝は、コボルトの右の眼球を突き刺していた。


「わおおおおおおおおおん! わお! わおん!」


 悲痛な叫び声をあげるコボルトは、痛みからか、地べたに寝転び、じたばたと暴れ出した。


「ゴブ!」


 その状況を好機と見たゴブリンは、コボルトの上に体を抑え、馬乗り状態になる。ゴブリンは、その状態でとにかくコボルトの顔を殴った。殴って殴って殴って。コボルトがあまり動かなくなると、ゴブリンは、近くに落ちていた木の枝を突き刺すように勢いよくコボルトの口の中に突っ込んだ。


「わ、ぉ……」


 コボルトは、遂に叫ぶ事も出来なくなり、動きを止め、そのまま絶命した。

 その瞬間、ゴブリンの体が少しだけキラっと輝いたのを『名無し』は見逃さなかった。

 コボルトを殺したゴブリンは、その日以来、同い年のゴブリンの中でも群を抜いた力を手に入れ、儀式の日、ゴブリンキングへと進化することになった。


◇ 


 『名無し』は思い返せばあの時、あのゴブリンがレベルアップしたという事にようやく気が付いた。モンスターを倒せばレベルが上がる。

 それに気が付いた『名無し』は、スライムの小さな体よりも少しだけ大きな岩を持ち上げ、スライムに悟られないように、ゆっくりと近づく。


「ゴブぅ!」


 思いっきり岩をスライムの上から落とすと、『ぺしゃっ』と音をたてスライムは岩の下敷きになった。『名無し』は少しだけ心を痛めた。スライムたちの命をもぎ取ってしまった事に罪悪感を感じたのだ。

 

「ゴブぅ……」


 『名無し』は両手を合わせ、スライム達を弔い、首にかけた魔道具をみる。


「ゴブっ!」


 魔道具の中央の数字が3から4に変化していた。丸2日の筋トレでも全く変化のなかった数字の変化に、先ほどの罪悪感など忘れてしまう程、はしゃぐ『名無し』であった。

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